第19回 ☆テコ入れ!! 教えてクロロスル先生☆

 シーナと合流するために再出発した直後、クロロスルが近づいてきた。

 え、なんすか。怖い顔しているんですけど。


「お前、スキルを持っていたのか」


 あれ、知らなかったんだ。

 そっか、さっきの戦闘が初お披露目だったか。

 一緒に戦うのに教えてなかったから、怒ったのかな。


「す、すみません。話忘れていました」


「まったく。で、どんな能力だ? 見たところ、高速で移動するようだが?」


 私以外がスローになるわけだから、他の人からしたらそう見えるのかな。

 どうしよう。素直に答えるべきかな。うーん、言ったほうがいいか。だって不服だけど、いまは仲間なんだし。


「周りの時間を遅くする能力、あとは……時間を飛ばす能力らしいです」


「らしい?」


「もう一個は一回しか使ってないので、よくわからなくて」


「ほう」


 クロロスルは地面に落ちていた大きな石を拾うと、上に投げた。


「時間を飛ばしてみろ」


「え、あ、はい」


 意識して時間を飛ばしてみる。

 次の瞬間、石は地面に転がっていた。上昇し、降下して落ちるまでの時間が消えたのか。


「ふむ、こちらも周囲に影響を及ぼすようだな。石だけでなく、風で舞った葉や流れる雲にも異変が起きている。兵士たちも……自分の位置が変わったり、していたことが済んでいて困惑しているようだ」


 そうか、スローと同じく世界全体が効果範囲だけど、他人にも支障をきたしてしまうんだ。

 起点、過程、結果の過程だけを削り取る力。多用すれば周りに迷惑が掛かるかも。


「能力が複数あるとは、生意気な」


「クロロスルさんだって、自分だったり他人だったり回復できるじゃないですか」


「効果の対象を増やしたに過ぎない。お前のは時間という共通点があるだけで、別物だ」


「珍しいんですか?」


「歴史上も稀だ。ふん、誇りに思うのだな」


 今日のクロロスル、やけにいろいろ教えてくれるな。

 先生のつもりなのかな。ありがたいけど。

 案外面倒見が良いんだね。ちょっと高感度上がっちゃった。


 今度野菜を育てたらこの人にもおすそわけしてあげよ。


「で、名前は?」


「名前?」


「スキルの名前だ」


「スキルの……名前?」


 ついオウム返しになってしまった。

 ん? スキルに名前? そんなのないよ?

 私の表情から察したようで、クロロスルはドン引きした。


「これだから他国の田舎者は困るのだ。普通つけるだろ、名前」


「いりますか? 『アオコのスキル』とか『時間操作のスキル』とか呼べばよくないですか? 充分識別できますよね」


「ならお前は自分のペットを『アオコの犬』と呼ぶのか?」


「そんなわけないじゃないですか。可愛い名前をつけますよ。……え、ペットと同じですか? スキルって」


「例えばの話だ!! スキルとは選ばれし者にだけ与えられる崇高なる力。相応の名を冠して然るべきなのだ!!」


「はぁ」


「それに、かっこいい!!」


「あー」


 なるほど、コロロちゃんのお父さんだわ。間違いなく。

 ちゃんと血が繋がってますわ、こりゃ。


 名前ねぇ、考えたこともなかったな。でもでも確かに、図書館で読んだライトノベルとか、ゲームショップでプレイしたRPGの体験版でも、技には大層な名前がついていた。


「じゃあクロロスルさんのスキルの名前は?」


決して朽ちぬ野望インモルターリスだ。素晴らしい名だろう。惚れ惚れする」


「お、おぉ〜」


 クロロスル、自分で言って自分でうっとりしてる。

 朽ちぬ、か。不死身のクロロスルらしい名前だ。

 なるほど、そういう風に名付ければ良いのか。


「シーナさんは名前つけてるんでしょうかね」


「あぁ、能力の効果は教えてくれなかったが、名前は教えてくれた」


「そうなんですか?」


「だいぶしつこく聞いたからな」


 なに? なんなの? 他人のスキル名気になっちゃう病なの?

 そんなに大切なんか? スキルに名前。


「やつのスキルは『神に選ばれし者ファートゥム・レクス』。まぁ、悪くはない」


 確かにシーナは人並み外れているというか、人間離れしたオーラがある。

 けど、神に選ばれしって、自分で言うかあ?

 なんつー大仰な名前ですこと。シーナ本人が考えたのかな。

 だとしたらちょっと笑える。


「お前はどうするんだ? アオコ」


「えぇ〜。なんでもいいんですけど」


 クロロスルが眉をひそめた。

 ご、ごめんなさい。


「そんなすぐ思いつかないですよ」


「どんな自分になりたいのだ。理想は? 夢は?」


「ん〜、のんびりスローライフを送りたいです」


 てかその願望があったから、最初の能力はスローだったんだし。

 なら時間飛ばしはきっと……嫌なことから逃げたい気持ち、だろうか。

 関わりたくない。直視したくない。こんな時間、早く過ぎ去ってほしい。みたいな。


「よし、このクロロスル様が名付けてやろう」


「え、なんか嫌です」


「本当に生意気なやつだ。そうだな、うむ、お前のスキルの名前は『理想の世界へカエルム』だ!!」


「は、はぁ」


「これが基本の名前、そしてもう一つ」


「もう一つ!? 2パターン!?」


「時間を飛ばす力にも必要だろう」


 なんてサービス精神旺盛なおじさまなの!?

 大丈夫かな。あとでお金請求されないかな。


「こちらはそうだな、『誰も邪魔をするなオムニス・ネゴ』で良いだろう」


 良いだろうって、勝手に決められちゃったよ。

 別にいいけどさ〜。

 えーっと、私のスキルそのもの、及びスローの効果を指す名前が『カエルム』で、そのなかの時間飛ばしの能力は『オムニス・ネゴ』ね。

 ふーん。あんまりしっくりこないなあ。てかスローと時間飛ばしで名前を別ける必要ある?


「ありがたく思え」


「あ、ありがとうございます」


 名付け親がクロロスルという屈辱。


「コロロちゃんにもスキルはあるんですか?」


「ない。いまはな」


「いまは? 後天的に目覚めるものなんですか?」


「そういう人間も少なくはない。それにこの私の娘だ。必ず、強力なスキルが目覚めることだろう。ふふふ、そのときこそ、我ら父娘でカローのすべてを掌握するとき。いまのうちに私の部下になっておくか?」


「遠慮しておきます」


 クロロスル、ずる賢いけどそこまで極悪人じゃないし、シーナよりはマシだけどね。

 こうして、私のスキルの名前が決まった。


 うーん、なんか緊張感薄れちゃったな。

 これからが戦争の本番なのに。


 私はパンっと自分の頬を叩いて、気合を入れ直した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※あとがき


ありがたいコメントの指摘を受けて、スキルに名前をつけてみました。

名前を考えるのが苦手だったので、めちゃくちゃ苦労しました。

ひえ〜。


応援よろしくおねがいしますっ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る