第17回 出兵!! アオコ、新たな恋の予感??
馬に乗り、大勢の兵を引き連れ首都を出る。
私はシーナの側近として、付かず離れずな位置で馬を歩かせていた。
まだトキュウスさんの死が胸に残っている。
当たり前だ。一日も経っていないのだから。
シーナの横顔を除く。
凛々しく、前だけを向いていた。
気分が悪い。なんで泣いてないんだよ。
こいつが真犯人だと暴露してやろうか。
それができたらどれだけ楽か。
本当なら、シーナの側にいることすら嫌だ。
正直、私はこの化け物が怖い。
もし私が反乱の兆しを見せれば、確実に迷いなく殺すだろう。
怪物、殺人鬼、サイコパス。
こんなのが本当にカローの頂点に立つって?
世も末だ。
「ライナ」
ポツリと呟いてみる。
ライナなら、シーナがトキュウスさんを殺した事実を知ったらどうしていただろう。
抱きしめてほしい。キスをして、優しい言葉をかけてほしい。
いまでも鮮明にライナの可愛い笑顔を思い出せる。
ライナに会いたい。
それから首都を覆う城壁を抜け、数キロ進んだ荒野で、
「パパ上さま〜」
後方から、若い女の子が馬を走らせてきた。
中性的な見た目の美少女、クロロスルの娘のコロロちゃんだ。
「あれれ? パパ上さまじゃない?」
「ここはシーナさんの軍だよ。クロロスルさんなら、まだ家じゃないの? あとから出発する予定のはず」
「あ!! そういえばまだイビキかいていたような。……なはは!! パパ上さまを見送りたい気持ちが溢れすぎちゃったようだぞ!!」
なに言ってんだこの子。
前々から思ってたけど、コロロちゃんって、ちょっと頭が、アレだよね。
「しかしこれも何かの縁!! がんばれシーナ!!」
執政官を呼び捨てとは肝の座ったやつだ。
シーナは軽く手を振るだけで、言葉を交わさなかった。
そういう気分じゃないんだろうな。
「おい、アオコ!!」
「え? なに? コロロちゃん」
「一つ私から、戦争のアドバイスをしてあげよう!!」
「戦に出たことあるの?」
「私を舐めるなよ。ふふふん。いいかアオコ、戦う前に食べすぎると、つらいぞ!!」
「……」
「つらいぞ!!」
「わー、知らなかったー。ありがとー」
っぱ頭がアレだわ。
「いいのだいいのだ。ふふふん、せいぜいパパ上さまの邪魔だけはするなよ!!」
「う、うん!! がんばるー」
てかパパ上さまって呼んでるんだ。
可愛いね。
「じゃあ、応援してるぞ!!」
そう言い残し、コロロちゃんは帰っていった。
その直後、
「アオコ、あいつどう思う?」
「なんですかシーナさん、突然」
「はっきり言って、私とキャラ被ってないか?」
…………うーん、若干。
「私より女の子にモテるやつになったらと思うと、気が気でない!!」
「そーですか」
「なんてな。少し気持ちが楽になったな。凱旋したら、感謝しないと」
自分でトキュウスさんを殺しておいて。
コロロちゃんとキャラが被っているだと? あの子は自分の父親は殺したりしない。お前みたいに。
と言いそうになったが、どうにか飲み込んだ。
あの殺しが、この世界の倫理観として正しいのかどうか、私にはわからない。
ただ理解しているのは、どれだけ文句を垂れようと私は、この人に付き従うしか道が残されていないということ。
なんとしても、執政官の座に戻さなくてはならないということ。
それが、私のせいで死んだライナへの罪滅ぼしだから。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一〇日近くが経過して、私たちはカロー最北端の小さな街を訪れた。
ここを一先ずの拠点とするらしい。
「まだカローの外ですらないのか。遠い」
もうすぐ戦いがはじまる。
私の、人生二回目の戦。
いくら私にスキルがあるとはいえ、今回ばかりは、相手にもスキル持ちがいるはずだ。
油断はできない。
一応、この二年間、剣の修業はしてきたが、実戦に関しては素人。
いくら異世界召喚の影響で身体能力が上がっていても、歴戦の猛者を相手にするのは厳しいだろう。
もやもやした恐怖心が、私の心臓にまとわりついて気持ち悪い。
「アオコ、アンリ、ちょっといいか?」
夜、私はシーナが泊まっている部屋に呼ばれた。
トキュウスさんを殺そうとした変な女もいっしょだ。
私、こいつ苦手なんだよね。
真っ赤な髪が威圧的だし。
無表情で怖いし。
シーナが拾った優秀な兵士らしいけど、どんなもんなんだか。
「なんですか? いったい」
「二人はクロロスルの部隊に入ってもらいたい」
「え!?」
「明日、この街でクロロスルと合流する際、正式に配属する形になる」
「ちょちょ、待って待って!! なんでです!?」
シーナが答える前に、アンリが口を開いた。
「隙きを見て、クロロスルを……暗殺」
「ふふ、そうしたいのは山々だが、さすがにな。無駄にあちらの統率を乱すことになる。それに、お前たちではあの男は殺せないだろう」
「では、何故?」
「クロロスル軍はしぶといが、突破力がない。加勢してやれ。それにいい機会だ。私の部下はこんなに強いのだと知らしめることができる」
勝利のためなら嫌いなやつにだって手を貸すってことか。
シーナのこういうところは尊敬する。
それ以外は大嫌いだが。
けど、クロロスルの部下になるのか……。いやだな〜。陰湿な嫌がらせとかしてきそうで。
靴にナメクジ入れられたり、靴にカタツムリ入れられたり。
しかもアンリと一緒だし。
と、アンリがため息をついた。
「シーナ様、お言葉を返すようですが、なぜこんなしょうもない女を……」
おい、しょうもない女って私のことか。
「こいつは剣術がゴミで、頭もゴミじゃないですか」
誰がゴミじゃ。
私のスキルを使えばお前なんか秒でポコパンなんだぞ。
「おまけに人を殺した経験もないとか。はっきり言って、足手まといです」
こ、こいつ。
言わせておけば〜。
「ふむ、まあ一理あるが、時間の問題だろう。アオコには才能がある。それに、アオコ、戦になったら殺せるだろ?」
「え? あ……」
「言っておくが、気絶なんて甘い考えは捨てろよ? 目を覚ましたらまた襲ってくるぞ」
「は、はい」
うん、わかってる。
シーナの指示に従うのは癪だが、やるさ。今度はちゃんと。
「そういうことだアンリ」
アンリは不服そうに目を細めた。
それを見つめたシーナが、パンと手を叩く。
「よし!! ちょうどいい。私はな、前々から捜していたのだ。私が気に入っているお前たちの妻を。うん、お前たち、結婚しろ!!」
「……は?」
「この戦で愛を深め合うといい。はっはっは!!」
あー、こいつも頭が……アレなんだわ。
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