第7回 最低クズ人間シーナ

 二日後。


「起きて、アオコちゃん」


 ライナに起こされ、私は目を覚ました。

 彼女の家に居候するようになって、私はこの子の部屋で眠っている。

 豪邸な割に部屋が余っていないらしい。


「おはよ、ライナ」


「ふふ、ヨダレが垂れてるよ」


「あえ?」


 ちなみに、ちなみになんだが私とライナは健全な関係のままである。

 いつどんなことをしたら子供ができちゃうかわからないからね。

 って違う!! ライナは私の恩人で、友人。そういう感情は向けてません!!


 可愛いのは認めるけど……。


 さらにちなみに!!

 残念ながら同じベッドでは寝ていません。

 残念ながら……。いやいや、ライナと至近距離で眠るなんて無理無理!!

 心臓バクバクしすぎて死んでしまうよ!!


「アオコちゃん、頼みたいんだけーー」


 ふらついたライナをそっと支える。


「大丈夫?」


「うん。ありがとう」


 ライナはもう一人の父親に似て、生まれつき体が弱いらしい。

 時折、こうやってめまいを起こすことがある。


「それで、頼みたいことって?」


「姉上さまをお越してきてくれる? あの人、ほっとくとずっと寝ているから」


「あれ? ルルルンさんと寝ているんじゃないの?」


「ルルルン義姉さまは、ちょっとした用事で昨夜から実家に戻られているの」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 シーナさんの部屋へと向かう道中、先日のことが脳裏をよぎった。

 手柄を横取りし、執政官に上り詰めたクロロスル。

 十中八九悪い人なんだろうけど、いまのところ、おかしな政策を打ち出してはいない。


 元老院が止めているのだろうか。


 はぁ、なに考えてるんだろ。

 そんなこと、トキュウスさんやシーナさんに任せておけばいいのに。

 私はのんびりスローライフだけに集中しよう。

 幸いにも、この家には広い庭がある。まずはここで野菜を育てよう。


 懐から、前の世界で買ったミニトマトの種を取り出す。

 運良く、一緒に異世界にやってきたのだ。


 ちゃんと育てて、ライナたちに食べてもらうんだ。


「あ、ここか。……シーナさん、起きてくださーい」


 扉を開けると、


「あ」


 シーナさんが知らない女性とちゅーしていた。

 しかも裸。全裸。すっぽんぽん。


「え」


「ア、アオコ!?」


「……お邪魔しました」


「ま、待てアオコ!! 違う!! これは違うんだ!!」


「なにがっすか……」


 てかこれ……浮気っすよね。

 この世界の倫理感的には問題ないのかな。

 いろんな女の子とイチャイチャするのが普通なのかな。


 浮気相手は褐色の肌をしていて、かなりの美形だ。とても悪びれた様子もなく、シーナさんの腰に腕を回す。


「だれ〜? この子」


 お前こそ誰だよ。


「まさか私以外にも手を出しているんですか〜? まったく、シーナ様ってホント罪な女」


 そのときだ。


「シーナ〜、シーナ起きてる〜?」


 部屋の外からルルルンさんの声が聞こえてきた。

 実家にいるはずなのに。


「用事終わったから早めに帰ってきちゃった〜〜」


 なんてタイミングの悪い。


「マズイこっちに来る!! アオコどうにかしてくれ!!」


「え〜」


「頼む頼む頼む頼む頼む!!」


「妊娠している奥さんがいるのに、こんなことして……」


「わかってる、わかってるんだ私の愚かさは私自身が!! しかし、抑えきれない!! 性欲!! 溢れ出る性欲の泉!!!! どうかこの罪人に慈悲をっっ!!」


 どうやらこの世界でも浮気は最低な裏切り行為みたい。

 シーナさん、女の子が大好きなのはわかっていたけど、まさかこんなにクズだったとは。


 ルルルンさんの足音が近づいてくる。

 このままじゃあ、ルルルンさんだってショックを受けて、お腹の子にも影響が出ちゃう。

 しょうがないな〜。


 ドアが開かれる、その瞬間。


「時間操作(スロー)のスキル!!」


 私以外のすべてがゆっくりになる。

 これでいまのうちに……。


「よし、ありがとうアオコ!!」


「へ?」


 シーナさんが浮気相手を抱えて部屋から飛び出した。

 わ、私以外の時間がスローになるはずなのに。


「ちょ、ちょっと待ってください!!」


 シーナさんが物置部屋に避難する。

 時間操作も解除され、二人は急いで適当な布を体に纏った。


「ほら、こっそり裏口から出るんだキリアイリラ」


 凄い名前だ。


「はーい。また会おうね、シーナ様♡」


「うん♡」


 会うなや。

 反省せえや。


 キリアイリラさんが去っていく。


「なんですか、いまの」


「湖の国の貴族の子」


「そうじゃなくて、私の時間操作中に動けていたじゃないですか」


「あぁ、そういうスキルだから」


 スキルを受け付けないスキル、的な?


「私はすべてのスキルを拒絶できる」


「じゃあ、私じゃどうやってもシーナさんには勝てない」


 シーナさんは剣の達人。

 いくら私の身体能力が上がっているとはいえ、スキルなしで勝てるのだろうか。


 って、なんで戦う前提なんだ。


「あはは、そうなるのかな。……ちょうどいいアオコ、もう一つ頼みたいことがある」


「なんですか?」


「明日、執政官になる。その手助けをしてくれ」


「誰がですか?」


「私に決まっているだろ?」

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