第4回 はじめてのともだち

 夜も更けて、群青の空が白みがかってきた頃、私たちは出発した。

 なるだけ早く帰ると言っても、みんなで走るわけではない。道中、魔獣や盗賊に襲われる危険があるため、急いでいても纏まって慎重に進んでいた。


 休憩時間は少ないけど。


 私はといえば、人生で初めての乗馬中なのでした。

 馬の乗り方なんてわからないのに、まるで乗り慣れた自転車のように扱いがわかる。

 私にジョッキーとしての才能があったのか、謎に身体能力が向上していたのと関係があるのか。


 一応、不安な私のために、ライナが後ろに跨って手綱を引いてくれている。

 背中にぴったりくっついて、ドキドキ。

 ……ライナのお胸、めっちゃぷにぷに。


「故郷の……カローだっけ? 何日くらいかかるの?」


「このペースなら六日でしょうか」


「六日!? そんなに!? どんだけ遠いいの?」


「カローは巨大な国ですから」


 デカすぎんだろ……。

 私がいた世界でいう、アメリカとかロシアとかみたいな超大国なのかな。

 でも、辺りを見渡してもなーーーんもない広大な大地だけが広がっていて、もったいない。土地の大きさに対して人が少ないんだろうな。


 あの辺全部果樹園にしたいな。


「私のいた世界なら、車とか、新幹線があるから、一日もかからないだろうに」


「車? 新幹線? アオコちゃんさんのいた世界って、移動技術に優れているのですか?」


「めちゃくちゃ。けどこっちの世界の方が好きかも。なんか、のどかだし」


 ライナが苦笑いを浮かべた。

 皮肉を言ったつもりじゃないんだけど、へんな勘違いさせちゃったかな。


「そう思っていただけてホッとしました。私が勝手に、アオコちゃんさんを召喚してしまったので」


 そういえば、私はどのタイミングでこっちの世界に来たんだろう。

 車に轢かれて死んだから来れたのか、轢かれる直前に運良く呼ばれたのか。


 そっか、どちらにせよ、私がこうして新たな人生を歩めているのはライナのおかげなんだ……。


 命の恩人。可愛い女の子。

 友達に、なれるかな。


「あ、あのさ」


「はい?」


「敬語使わなくていいよ。距離を感じちゃうし」


「……」


「あと、これからも仲良くして、この世界のこといろいろ教えてくれたら、嬉しいな……なんて」


 うわーー!!

 なんか顔がめっちゃ熱い!!

 好きな人に告ってるみたいじゃんこれじゃあ!!


 ライナは私の心を読んだように、全てを見通す天使のような笑みを浮かべた。


「はい。あ、いや、うん!!」


 えへ、えへへ。

 人生初友達。

 やったああああああ!!!!

 この世界に来てよかったあああああ!!!!


 よし、決めた。この子のために生きていこう。

 牛さんを飼育して、野菜なんかも育てたりして、牛乳とか作物が手に入ったらまっさきにライナにあげるんだ。


「なにかしてほしいことがあったら遠慮なく言ってね」


「ありがとう、アオコちゃん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それから六日間、私はライナからいろんなことを聞いた。

 カローは民主主義制で、みんなから支持される執政官二人と、元老院っていう人たちが政治を行なっているらしい。

 正直ちゃんと理解できていないけど、執政官は私がいた世界でいう総理大臣とか大統領的な感じ?


 元老院はその他議員、みたいな? こ、こんなことならちゃんと社会の勉強しておけばよかった。


 そ、それでライナとシーナさんの父、トキュウスさんがその執政官。

 頼りない印象だけど、凄い人なわけだ。


「じゃあライナはお姫さまなんだね!!」


「ふふ、そんな大げさなものじゃないよ」


 やがて、私たちはカローの首都に到着した。

 土や木で作られた建物が並ぶ、レトロな街並み。

 重要そうな建築物は石造りで、私の世界でいう紀元前って感じ。


 人々は長い布を纏っていて、ラフで動きやすそうだ。

 民衆の目が私たちに向けられる。

 とくにシーナさんの人気は凄まじく、あちこちから黄色い声援が鳴り響いていた。


「きゃー!! シーナさま〜!!」


「こっち向いてー!!」


 シーナさんって、凛々しい見た目をしているし、頭も良いからモテるんだろうな。


 ときどき、路地裏で横たわっている人を見かける。

 痩せこけていて、かなり身なりが汚い。

 浮浪者、なのだろうか。

 思わず目を背けてしまう自分に自己嫌悪。


 それから私とシーナさん、ライナ、トキュウスさん、数名の部下たちは街の中央にある議事堂へと入った。


 そこではハゲ頭の老人たちが、ご馳走に囲まれながら楽しそうに談笑していた。


 そのうちの一人が告げる。


「いやあ、まさか魔獣軍団を殲滅するなんて、賞賛に値するぞ、クロロスル」


 え?

 あれ?


「いますぐ君を新たな執政官に任命しよう」


 魔獣軍団を倒したのって、トキュウスさんの軍じゃないの?

 シーナさんが憎々しそうに拳を握る。


 老人たちに囲まれた、金髪の中年男性が頭を下げた。


「心より感謝します。此度の勝利をもたらしたこのクロロスル、必ずやカローのために尽力しましょう」

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