戦いの準備5
「ハルマの集落へ行くには決められたルートを通らなければならない」
拷問を終えた少年に一応の手当てをした後、俺達はグレオの供述に耳を傾けた。
話によると、決められたルート以外には様々な罠が仕掛けられているとの事で、嵌れば命の保証はないという。パンジスティックやバンブーウィップのようなブービートラップの他、落石、汚水、蛇の投下、毒針設置等の仕掛けが施されているらしく、どう聞いてもこの時代の発想ではなかった。シュバルツが伝えたのは確定的である。
「そのルートは簡単に覚えられるのか?」
「正しい道順を通るには目印がある。それを辿っていけば問題ないだろう」
「なるほど分かった。それでは、その目印について教えてもらおうか」
「あぁ……分かった……」
その後もグレオはこちらの質問に対してツラツラと返答をしていった。
先述したようにとうに精神は屈しており嘘を吐けるような状態ではなく、十中八九嘘は言わないという確信はあった。しかし、やはり不安は拭えなかったし、いざ攻めるとなった際には信用に足る根拠を提示しなければ誰も付いてこない。信憑性の担保が必要だ。
そこでもう二人の捕虜である。
彼らについてはグレオとは違った方法で情報を聞き出す手筈となっていた。まず一人目は生活圏から離れた小屋にてエーラに世話をさせていた。彼女には極めて親密に、まるで家族のように接してほしいと伝えてこれを了承。エーラが世話をするのは夕方以降であり、それまでは村の者が罵倒と暴力でハルマの男を苛めた。結果、一週間程度で陥落。男はエーラに愛情を示すようになる。
「一緒に逃げましょう。どうやったら貴方の集落へ行けるのか教えて」
エーラのその言葉にまんまと乗った男は森の構造について容易く口を割った。内容はグレオが述べたものとほぼ異口同音であった。
次に、村で放置していた男については檻の中で水も食事も与えず過ごさせ、眠る事もさせなかった。意識が朦朧となり覚醒しているのかしていないのか分からない状態で酒を無理やり呑ませ質問したところ、やはりグレオと同じような内容を供述した(酩酊と意識混濁により一部情報が正しく聞き取れなかった部分はあるが概ね同じだった)。
こうして聞き出した三者の話を統合すると見事に整合性が取れた。これはハルマ攻略に当たって重要な情報として位置付けてもいいと判断し、俺は男達を招いて侵略のための作戦会議を開いた。
「というわけで森を攻略するための情報は得た。この情報を基に隊列を組み進んでいこうと思うのだが、意見のある者はいるか」
俺がそう述べると手を挙げる男が一人。彼はこういう話の時に必ず真っ先に挙手をする人物であり、俺はその積極性を買っていたため、快く「なんだ」と発言を許可した。
「三人が同じ嘘を吐いている可能性は? もしかしたら、こういう局面を想定して予め口裏を合わせるようにしているかもしれない」
男の質問は極めて真っ当であり、また理知を感じさせる内容だった。
やはりこの村の連中は加速度的に知能が上がっているな。
そう感銘に浸りながら、俺は返答を述べる。
「その可能性も確かにある。なので、今回は一人斥候……偵察に出てもらって確かめてもらおうと思う。危険な任務であるから立候補者がいなければ俺が行くが、どうだろう」
「馬鹿言うな」
そう声を荒らげたのはムシュリタだった。
「この作戦はお前が動かしていてお前が引っ張っていっているんだ。頭が自分から危険に晒されにいってどうする」
「しかし、言い出した人間が安全な場所で口だけ出すというのは、皆納得しないだろう」
「まだそんな事言ってんのか。俺達はとっくにお前の指示に従う覚悟はできているんだぞ。ムシク。お前がこの村の指導者だ。だから従う。なぁ、みんな、そうだろう」
ムシュリタの言葉に一同は「そうだ」「その通り」などと口を揃え、俺は汗が噴き出した。
実に嫌な流れだ……!
俺が村のトップになるのは規定事項となりつつあった。こうなると斥候で死んだ方がまだ気楽である。
「まぁ、指導者云々は置いておいて、誰もいかないのであればこれはもうしょうがないだろう。俺はもう覚悟を決めているんだ。手を挙げる者がいなければ俺が実行するしかない」
「馬鹿だなムシク。誰も行きたくないから名乗り出ないわけじゃないんだぞ」
「じゃあ、なんで……」
「そんなもん決まってんだろ。全員、自分が行きたいからだよ」
「……は?」
「誰が敵の陣地に一番乗りするか狙ってんだ。最初に手を挙げた奴は標的にされるから全員様子を見ているんだよ。どう動くのが最善か考えているんだ。まぁ、狩りと同じだな」
「しかし、それじゃ一向に決まらないんだが……」
「だからよぉムシク。お前が決めてくれ。そうすれば公平で平等かつ、合理的だ」
「……」
公平で平等かつ合理的。
そんな言葉を使うまで進んだ原始世界の人間の思考能力に驚く。
……少し、やり過ぎたか。
度の過ぎた知性の共有について反省するも時すでに遅し。急激な人類の発展に寄与してしまった俺は、もう無責任ではいられなかった。
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