最低限文化的生活1

"この世界のシュバルツはすでに死んでいるが、やはり滅亡に向かって進んでいるんだな?"


"はい。しっかり残り五分を刻んでいます"



 

 したくもないコアとの脳内会話により現状確認を行う。シュバルツが死んだという事実と、それでもなお終末に向かって進んでいるという異常。率先して救世をしていくつもりはないが、気持ち悪さは如何ともしがたく、可能な範囲で究明はしたいところであった。




"その死んだシュバルツについては情報を見れるんだろ?"


"はい。カオが伝えている通り、彼が指導して銃を作り他部族を蹂躙していました。文明発展にも力を入れていたみたいですが、周りの人間がスピードに追いつけずに諦めたようです"


"なるほど。それで、仕方なく目に見えるところだけでも殺しにきたと"




 科学技術もくそもない世界で世界滅亡の使命を課せられた事には同情する。





"ただ、シュバルツは継承されるそうですからね。彼に子供がいたら当然観察はできなくなってるでしょうし、滅亡を引き継いだのかもしれませんね"


"仮にそうだとして、滅ぼすまでに何代かかるんだよ。この世界は原始時代だぞ。それこそエストの魔王みたいに改造生物でも造ればなんとかなるかもしれんが"


"そうなんですよね。この世界にはもちろんあなたがいる地域以外にも人類が生活しています。海、山、川を渡った場所で独自の生活を築き、中には文明を発展させているところもある。言っちゃ悪いですが、こんな僻地で何かしたところで本流が変わるわけがないんですよ"


"案外普通に火山の噴火とか地震とか隕石の衝突とかで滅びるんじゃないか? シュバルツ関係なく"


"だったらその過程が見えるはずじゃないですか。こっちはなんで滅亡するかも分からないんですよ"


"お前、初対面の時に俺が滅亡理由聞いたら答えてただろ。どの世界がどういう風に滅びるのか覚えてないのか"


"それが急に記憶から抜け落ちてまして"


"……なんだと?"


"もしかしたら世界に、モニタ越しに抹消されたのかもしれません"


"そんなわけあるか。視覚情報からどうやって記憶を消すんだよ"


"まぁそれはそうなんですよね。いや、一応、特定の光波を断続的に照射すればその前後の記憶を消す事は可能ですが、スポットでの改竄はほぼ不可能でしょう。ただ、他に要因が思い当たらず"


"そっちの世界にシュバルツがいるなんて事はないだろうな"


"だとしたら是非お会いしてお話しを伺いたいですね。どうやって情報を隠蔽しているのかとか、そもそもどうやって生まれたのかとかご教示願いたいです"




 嫌味なのか皮肉なのか本心なのか相変わらず分からないコアの発言を聞き流しながらこの事態について考える。管理されている世界で起きている異変が管理している世界でも発生しているというのは尋常ではない。それに、世界の終末結果だけ秘匿するというのも不可解だ。干渉できるのであれば、滅亡させるためにもっと直接的な手段を用いるはず。何故それをしないのか。できないのか、目的があるのか、それとも既に実行していて効果が表れるまで待機しているのか、考えるだけ無駄な思案だが、考えざるを得ない。




" 仮にシュバルツがお前の世界に何かしていたとして、対策はあるのか?"


"ないですね。なにしろ未知のアクシデント。完全なるイレギュラーですから、なにをどうしたらいいのやらさっぱりです"


"随分と呑気じゃないか。もしかしたら、自滅プログラムでも仕込まれているかもしれないんだぞ"


"もしそうであればいいサンプルになります。シュバルツが本当に世界の分身だとしたら、これは非常に面白い。どのような手段を使って私達を妨害する気なのか……”




 コアは心底からそう思っているようで、ゾッとした。生命が持つ根源的な欲求、生への執着が感じられないのだ。




“怖くないのか。死ぬかも知れないんだぞ”


“私達は個体としての死を克服しました。恐れるべきは死ではなく探求を止める事です。何を考えるわけでもなく生命活動を維持している状態。それこそを恐れています”


“そうか。俺はずっと、何も考えずに眠っていたいがな”


“それはあなたがまだ途中の人類だからです。いずれ気付きますよ。思考のない人生に価値はないと”


“気が付く前に死にたいものだ”


“死を望むのもまた幸福への探求です。ただし、私達がもうずいぶん昔に無意味だと結論付けたものですが”


“……”




 再び黙って聞き流す。

 コアが幸福を求める理由は逃避であるようにも思えた。奴が何者であるかはこの時点で知る由もないが、幸せという概念に何か、救済を求めているような気がしたのだった。それは普通の人間であっても誰もが思うところではあるが……




“結局収穫はなかった。もういい。お喋りはお終いだ”


“分かりました。また何かあれば教えてください”


“お前とはなるべく話をしたくない”


“そんな事言わずに。あなたの話は実験記録として実にゆうよ……”




 俺はいつの間にか会話を強制終了するコツを掴んでいた。まったく使えないスキルを身に付けてしまった苛立ちはあるが、コアと話しているよりかは幾分マシである。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る