読めない心14

"まずはどのネストが動いているのか知りたいですね"


「一応リストにして調べてみたが、どれも座標に動きがない。恐らく、これも工作しているんだろう」


"なるほど……では、各ネストのIDとパスワードを表示できますか?"


「あぁ、ほら、ここ」


"ありがとうございます。ちょっと解析するのでお待ちください……"




 ……




"……お待たせしました。痕跡を辿った結果、一、二、四、七、九、十一、のネストが二機ずつ人工惑星に向かっています。書き換えるか、停止のコードを入力いただければ解決するかと"


「どこをどうすればいいんだ」


"まず、該当番号のネストにあるサーバにアクセスいただいて、ディレクトリ¥¥nest/program file_System/coordinateを開いてください"


「まて、口頭で言われても困る。デバイスにテキストとして送れないのか」


"あ、もしかして文系ですか?"


「うるさい」


"おっと図星ですか。まぁ、今は関係ないからいいでしょう……はい、送りました"


「よし……これをコピー、ペースト……入れた」


"はい、じゃあ、Controlフォルダを開いていただいて、格納されているProgramファイルを開いてください"


「……開けないぞ」


"なるほど。ではPromptを開いてください。スタートメニューから開けます"


「……」


"……"


「……」


"……"


「……」


"……あの"


「待て、今開いた」


"結構です。そこに、先程送ったディレクトリを打ち込んで、それから……"





 慣れないながらもコアの指示通りに処理を進める事五十分。移動プログラムは巧妙に秘匿され、幾重にもガードが固められていたが、ようやく一機、ネストの停止に成功したのだった。



"やりましたね。だいぶ突貫で仕込んだようなのでそこまで難しい処理はされていませんでした。後五機、頑張ってください"


「待て、これ、時間内に止められないんじゃないか? 残り二時間十分だぞ。このペースだと三機目を停止させる前にタイムリミットだ」


"もう一回やりましたから、スピード上がりますよ。一回二十五分以内に完了すれば問題ありません"




 ……気楽に言ってくれる。




 このネスト停止作業。コアの指示通りにキーボードを打ち込み、コピーアンドペーストをするだけなのだが、いかんせん細かな細かな部分もあり神経を使った。また処理速度の関係で、ちょっとした入力ミスを修正するにも一、二分掛かった。これは設置するサーバの費用を抑えたためである。予算会議で突き上げを喰らいコストに制限が掛かったためやむを得なかったのだが、こんな事になるのであればハイパフォーマンスのものを揃えておけばよかったと深く後悔した。とはいえ、やるしかなかった。



……



"二機目、三十五分。十分のロスは厳しいですよ"


「コツは掴んだ。集中すれば次は三十分を切れる」



 二機作業完了。

 八十五分




 ……




"二十九分。有言実行ですね"


「一分か……まずいな……ペースを上げなければ……」




 三機作業完了。

 百十四分




 ……




"三十一分。ちょっと、スピード落ちてますよ"


「通信状況が悪い。高速化できんのか」


"善処します"


「本当にできるのか?」


“気休めくらいにはなるでしょう。ただ、ラグが秒単位で変わるくらいですのであまり期待しないでください”


「……頼りにならんな」


"無駄口叩いている暇ないですよ。時間がないんです。さか、ペース上げていきましょう"


「……」




 四機作業完了。

 百四十五分。




 ……




"二十分です。凄いですね。どうやったんですか?"


「……AIに作業をルーティン化させて半自動で処理できるようにした」


“あ、なるほど。それでさっき時間かかったんですね”


「あとは適所でクリックをするだけだ」


“でも、間に合いますか? 残り十五分ですよ?”


「既に走らせている。作業工程を見るとだいたい半分までできているようだ。大丈夫だろう……」




 五機作業完了。

 百六十五分




 ……




“最後の一機ですが、これはロンデムに向かっているようです。さすがにこの事態に気が付いて現在迎撃準備が進められていますが、試算の結果どのように計算をしてもネスト爆破後のデブリが直撃するようで、市民の脱出処置が同時に進められています。各港ではパニックが起こっていますね。我先に助かろうと皆さん必死です。いやぁ、やはり人間も動物ですね”


「……随分悠長じゃないか。まるで他人事だな」


“ロプロとネプの安全は保障されたんです。世界の滅亡という最悪の事態は回避されたのですから、私はもうこの事態にそれ程興味はありません”


「ロンデムに住む人間はどうなってもいいというのか」


“可哀想だとは感じます”




「……」


“お、完了しましたね.十五分。最短記録です”


「……」




 ……




 六機完了。

 百八十分。

 


 ……



「ギリギリ……」




 緊張と過集中により汗が一気に噴き出て喉が渇いた。開封していた水を手に取り、飲み干す。




"これで問題は解決です。週末時計も巻き戻りました。試算だと、向こう五百年は平和なようです"


「そうか」


“あれ? 嬉しくないんですか?”


「大勢の人間が死ぬかもしれないという時に軽薄な態度をとるような奴と一緒にいたくないんだよ」


“深刻になったって何も変わりませんよ?”


「……もういい。消えてくれ」


“サポートの感謝の言葉くらいあってもよさそうなのですが、まぁいいでしょう。それでは、もう少ししたらお迎えに参りますので、それまでどうか、平和になったアンバニサルをお楽しみになってください”


「……」




 楽しむ。

 そんな事ができるわけがなかった。何故なら俺はこれから、最後の仕事に挑むのだから。


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