読めない心13
「何の用だ」
“終末時計の時間が急に進んだんですよ。それで連絡を取ろうと思ったんですが、貴方を探知できない。色々試してようやくこうして話ができるようになったというわけです”
「そうか。だが、もう何もかも遅い。この世界は崩壊する」
“え? 何があったんですか?”
「そこに転がってる男がネストにプログラムを組んだんだ。人工惑星にぶつけるようにな。三時間後に衝突して終わりだよ」
“なるほど。三時間の猶予があるわけですね”
「あったところでどうしようもない。この部屋はジャミングが張られているし、コンピュータもネットワークに繋がらない。詰んでいるよ」
“だったらこっちの回線を介して繋げましょう”
「そんな事ができるのか?」
“そうですね。規格から何から違うので少しお時間いただきますが……まぁ十分といったところですね”
「十分で異世界の技術と連動できるのか?」
“それはもう、こっちの技術も凄いですからね。構造をトレースしてAIに学習させれば即できあがりますよ。まぁしばらくまっていてください”
……
コアの声が途絶えると、俺は喉の渇きを覚えたので保存されている水を飲んだ。賞味期限は百年先の日付が記載されている。シュバルツはここで余生を過ごすつもりだったのだろうか。誰もいない世界で、ただ一人……
“お待たせいたしました。作業完了です。これで、お使いのデバイスとコンピュータが回線に繋がるはずです”
きっかり十分。コアの声が脳に響いた。
「本当だ……IPとかどうなるんだ?」
「一応この場所から発信されたように見せる細工はしています。何か言われたら適当に言い訳しておいてください」
「……」
一抹の不安に駆られたが時間がない。迎撃するタイミングが遅れたらネストの破片によって人工惑星は大きなダメージを負う。直撃しなくても人類は死滅するかもしれないのだ。急ぎ、デバイスの宛先一覧を確認する。
とりあえず、ウィルズに話そう。
気に入らないが、俺の持つパイプで一番力を持っているのがウィルズだった。奴なら他惑星の政治家とも繋がりがある。話しが通じればスムーズに問題解決に向けて進んでいくだろう。画面をタップして荷電。キャッチが三回鳴ると、相手に繋がった。
「はい、ウィルズですが」
「ウィルズさん! アシモフです! 三時間後、人工惑星にネストが衝突します! 至急迎撃態勢を取るよう指示をだしてください!」
「……アシモフ君。君、ドラッグでもやっているのか?」
「僕は正気です! 監視プログラムは脆弱性があって現在機能していません! マニュアルでの監視を行っていただければネストが近付いてきているのが分かるはずです! 猶予がありません! 急いでください」
「少し、休んだらどうかな。良い保養所を教えるが」
「これは事実です!」
「アシモフ君。私は何でも屋じゃないんだ。できない事もある。デブリ監視は国防省の領域だし、他国とも連携を取る必要がある。すぐに私が動かす事は難しい。証拠があれば話は別だがね」
「証拠……」
この時点で提供できるような証拠などありはしない。コンピュータは初期化されているし、シュバルツも死んでいる。物的証拠も状況証拠も何もない状態。そして、真実を話してもこの非現実的な内容は俄かに信じ難い。駄目だ。どうにもならない。
「悪いけど、私は忙しいから切らせてもらうよ。もし君の話が本当だったら地獄で謝ろう。だがそうでなかったなら、一ヵ月は休みなさい。君は働き過ぎだし、私も頼り過ぎた」
「あの……ちょっと待って……」
「後でワインを送るよ。それじゃあね」
……切りやがった!
話しにならないといった様子で通信が切断された。腹の立つ事だが、気にしている暇などない。早く、誰かに動いてもらわなくては!
その後、あらゆる手を尽くし様々な人間に警告を送るもすべて同じであった。誰も俺を信用しない。異常者、狂人、中毒者のレッテルだけが張られていく。多くの取引を行い、関係の構築にも尽力してきたというのに、誰もが皆、俺の言葉を戯言や妄言としか考えないのだ。
金で信頼は買えなかったか。
大きく落胆。もっと密接なコミュニケーションを取っていればこんな問題は起きなかったと絶望。
ヤーネルを政府に売り渡していなければ助けになってくれたかもしれないのにな。
やはりあの時、ヤーネルと共闘する道を選ぶべきだっただろうかと後悔の念が湧き上がる。結果論だし、そちらの道を選んだとしてももっと悪い方へ進んでいったかもしれないのだが、追い詰められている時、俺はいつも過去の選択について考えてしまう。それが時間の無駄であると知っているのに。
“あの、終末時計がまたどんどん進んでいるんですよ。どうにかしてください”
「手は尽くしたがもう無理だ。誰も俺の言う事を信用しようとしないんだからどうしようもない」
“だったら、こっちでネストの移動を止めましょう。クラッキングして、プログラムを書き換えましょう”
「誰がやるんだそれは」
“それは勿論、貴方ですよ”
「馬鹿を言うな。俺はプログラムについては素人だ。どうしようもない」
“それは私がサポートします。こちらからの干渉は原則禁止されているんですが、これくらいならいいでしょう”
「……大丈夫なのか?」
”さっき、回線繋げてみせたでしょう。信頼してください”
「……」
思わぬ事態となってしまったが、まだ希望があった。その事実が、俺の四肢に力を与えた。
「……分かった、やろう。それしかない」
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