読めない心10

 惑星の爆発は、シュバルツが起こすのか?


 ファイル内容が全て正しいものであると仮定するとその可能性は非常に高かった。エニスのシュバルツは、本人が死ぬまでその情報を収取できていない。シュバルツに関する情報が秘匿されていると考えれば、人工惑星が爆発するまでの過程が不明である説明が付く。他世界のシュバルツが観測者に気が付いており、観測を遮断できる術を持っていればそれは共有されているだろう。そんな都合のいい話があるかどうかは怪しいものだと思ったが、現状でかなりシュバルツに優位な展開となっていたから、なくはないなと感じていた。




 シュバルツに父親の人格が上書きされているのであれば、早急に対策をしなければいけない。




 せっかくネストを救ったとしても人類そのものが滅亡してしまったら意味がない。ファイルの内容は狂人の妄想で、シュバルツの失踪と無関係であればそれはそれでよし。ともかく最優先事項として彼の確保を考えなくてはいけない。




 とはいえ、どうするか……




 アンバニサルにはいたるところにカメラが設置されており、ドローンも巡回している。AIによる人物判定も精巧だから、顔写真を参考データとしてインポートすればすぐに足取りは分かるだろう。しかしそのためには警察を使わなければいけない。捜査の段階で身分偽装が判明するだろうし、ネストからの脱走者という事も露見してしまう。それを考えると心が裂かれる思いがし、動悸が激しくなった。耐えられない苦痛である。




 なんとか俺だけで追跡できないか……運送用のドローンと自走配送者にカメラを取り付けて……いや、無理だ。コストが掛かり過ぎる。これ以上会社を私物化する事はできない。ウィルズに頼めないか……難しいな。国や商務省に何のメリットもない。奴は利害が一致しなければ手を貸さないだろう。俺を縛る鎖がもうある以上、過度な要求は聞き入れられない……アンデックスの情報網を使って……これもできない……領域が違い過ぎる……




 思考回路が閉じていく。どうにもならない。こんな風になると、何をやっても上手くいかない気になる。




 駄目だ、一度別の事を考えよう。まず、シュバルツが人工惑星を爆破させるのであればどのようにして実行するのか。規模は地球の三割程度。生半可な爆弾では破壊できない。となると、大量破壊兵器。核か。




 この世界にも勿論核兵器はあるが使用も製造も国際法で禁じられている。が、秘密裏に保有している国はあったし、なんなら個人で作る事もできてしまう。ウランに似た燃料を資源惑星から回収できるため、そこからプルトニウムのような元素を発生させる事ができるのだ。惑星を破壊するだけであればミサイルに搭載する必要も爆撃機から投下する必要もない。その場で爆発させればいいだけだ。もっとも、惑星破壊のためには相当な燃料が必要だから、今日明日に実行できるわけでもないか。きっと他の手を使ってくるだろう。俺がシュバルツであれば、捕まってしまえば全てが終わる状態で長期的な計画は選ばない。数日の内に実行できる方法を取る。




「……そんな方法があるのか?」




 つい独り言が出てしまった。短期間で巨大な惑星を同時に破壊するなど現実的な話ではない。何か、裏技ともいえるようなやり方を知っているのだ。であれば対策など考えても無意味である。既知の外からアプローチされては打つ手もない。




 何かファイルに書いてあればいいが……ん?




 デバイスを見ると、電源が落ちていた。バッテリーは十分にあったため電池切れではない。なにかしらのエラーが発生したのだろうが、嫌な予感がした。




 とりあえず、再起動……




 電源を点ける。表示されるのは初期設定画面。冷や汗が出る。

ともかくセットアップを完了してファイルを確認。


 ファイルはありません。


 モニタにはそう表示されていた。データが全て消えてしまったのだ。




「このタイミングでどうして!」




 叫びながらデバイスを叩きつけ、頭を抱えた。やはり、シュバルツにとって優位な展開となる。




 人工惑星はきっと近い内に三基とも爆破されるだろう。俺はそうなると知りながら何の手立てもなく傍観するしかないのだ。こんなに情けない事があるか、なんのために奔走してきたのか。




 自身の力のなさと無能さに絶望する。やはり俺は駄目だ。最初から無理だったのだ。分不相応な真似をするから苦しむんだ。そんな風に自分を責めて、自傷のような状況に浸る。だが、一通り落ち込むとハルトナーの顔が脳裏に浮かんだ。彼だったら決して挫けないだろうし、こんな俺を見たら叱責するだろう。



 

 そうとも、ハルトナーなら最後まで諦めない。俺は、彼に恥じないよう最善を尽くさなければならないのだ。




 ハルトナーの事を考えると、自然と力が湧いてきた。シュバルツを止め、ネストを解放しなければならないという使命に燃えた。そしてその強い気持ちが脳を加速させ閃きを生んだ。




 ファイルはコピーだったんだ。だったら、オリジナルを見に行けばいい。




 簡単な事だった。考え過ぎて馬鹿になっていた。

 俺は急いで部屋を出て社用のシャトルを出す。目的は、シュバルツが過ごしていたネストである。


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