自由のために15

 実際に人工惑星を新造するとしたらどれだけの工期と工費が必要になるのか。

 三惑星も突貫ではあったがそれまでにプロジェクトは動いていてガワ自体は用意されており、今回のように思いつきで動いていたわけではない。ノウハウが蓄積されたとはいえ、安全かつ長期的に居住できる巨大施設の建造など途方もない計画。一企業が担えるものだろうか不安となる。



 せめて三惑星のようなガワがあればな……



 ついないものねだりをしてしまったのだが、この発想が閃きとなる。




 ……あ!

 ……ある!

 使えそうなものがあるじゃないか……それも無数に……!




 ネストだ。非公認のネストが山ほどあるのだ。

 見つかった非公認のネストはそこに住む人間を移動させた後に接収されるのだが管理コストの割に使い道も限られる事からその多くが放置されスペースデブリとなるのを待っている状態であった。これを活用すれば費用は大きく抑えられる。政府に働きかけて国が管理しているネストを買うために幾らか積む必要はあるが、新規製造するより遥かに現実的だ。ついでに公認ネストに収監されている人間の開放に成功した後、その人達を集めて住んでもらえば自助支援にも繋がる。彼らはそこで働き、家を建て、家族を作り、学びながら新たな生活を送るのだ。そして新たな国を作って自治権を確立すれば戦前のように生きていける。長く時間はかかるだろうが、それでもやる価値はあるだろう。いや、やらなければならなかった。そのために俺は、アンバニサルで生きていたのだ。




 独立と建国の宣言をするまでに要綱をまとめておいた方がいいな……容認まで考えさせる間もなく即効で進めたい。国連関係者に根回しも必要だ。人権派や反戦派。敗戦国とパイプがあった政治家とも話をしておきたいな……やる事がまた増えた……メモをしておこう……デバイス……デバイス……



「アシモフ君」


「あ、はい」


「せっかく完成品を見に来たんだ。ボケてちゃいけないよ」


「あ、すみません。ちょっと、今後の展望について、啓示のようなインスピレーションが走りまして」


「先の事も大事だがね。しっかり今を見ないと足元をすくわれる?」


「胸に刻みます。まぁしかし、テスト通り良好ですし、数値の面でも問題が……あ、座標に不備がありますね」




 手にしたデバイスに送られたデータを確認すると、一部のユニットにおいてZ軸とY軸にエラーが表示されていた。三次元制御システムに問題が生じていたのだ。



「多数のユニットを同時稼働させる関係上、僅かな歪みが全体に影響し機能しなくなります。少数郡対でのテストで不備の発生は確認されていませんが、全数での正常稼働率は六割となっていますね」


「ユーリさん。それは予めご連絡いただきたかったですね」


「申し訳ございません。ただ、全数を前提とした使用は想定されていないかなと」


「要望を勝手に決めつけちゃいかんでしょ。未完成の状態での納品なんて受け付けられませんよ」


「そこはご安心ください。現在は自動で環境データを取り込んでいますが、手動入力する事によってこちらのエラーは防げます」


「とはいえねぇ……」


「修正パッチも開発中です。シュバルツ君。進捗はどうかな」


「はい。テスト段階ではありますが、周波数を変更してセンサーの範囲拡張には成功しています。問題の発生原因が外部環境の演算不足ですので、収集できる情報が増えれば精度は上がります」


「なるほどありがとう……そういったわけで、近いうちにパッチ配布可能な見込みです。期間は二週間お待ちいただけると」


「……大丈夫なんですか?」


「はい。問題ございません」




 出資者に向かってのパワープレイ。他に依頼先がないだろうと踏んでいるからこそできる折衝方法である。日本にいた頃に勤めていた会社でこんな真似をしたら即座に担当変更だ。中々に強気であるが、先述の通り代替先がない。俺もヤーネル、ネオラブルに頼る他ないのだ。



 しかし、ヤーネルの方も一筋縄ではいかない。




「なるほど。では、納期を過ぎた場合は違約金をいただきますので、お忘れなく」


「え?」


「契約書に記載していたでしょう。’’やむを得ない事情などを除き、乙の求めるスペック、強度、仕様等を下回る場合、甲は乙の定める違約金を支払うものとする。尚、納期については原則乙が定めた日程とする。"と。甲は御社。乙は弊社です。しっかり確認のサインもいただいております」


「と、当然目を通しております! 大丈夫です! お任せください!」



 ……狼狽。ろくに読んでいないのは明白だった。

 契約内容の要約や、金銭のやり取りが発生し得る箇所の可視化についてはAIにより実現可能ではあったのだが、それでも内容を見ないで締結するという事例はままある。ユーリの場合は技術職上がりであり、仕様書ともいえる契約書をなぜ確認していないのか疑問であったが、まぁ、忙しかったという事にしておこう。




「あ、それよりもですね。ご連絡の通り、本日の夜、お食事の用意をしているのですが、まだお時間ございますし、オフィスで少しお休みになられてはいかがでしょうか」


「食事?」



 

 ユーリの言葉に俺は疑問符を付けて聞き返した。




「あれ? ヤーネルさんにはお伝えしていたのですが……」


「あぁ、すまんねアシモフ君。忘れていたよ。君、今日時間あるかい?」


「まぁ……」


「だったらご馳走になろうじゃないか。なぁ?」


「……そうですね」


「よかったです! それでは、お部屋にご案内いたしますので、どうぞ、こちらへ……」


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