起業3

 せっかく頭のいい児童を招き入れたのだからこれを有効活用しない手はない。学習塾を新規サービスとして展開する事にした。


 子供が子供を教える事ができるのかという懸念はなくはなかったし、実際に営業をかけてもそういった声が多かったのだが、格安に加え(といっても配送業よりは高く設定したが)、「次のテストで改善されない場合、契約金は不用かつ無料で解約いたします」との文言により思いの外生徒は集まった。数にして二十名。この二十名の成績を上げる事が最初の至上目的となった。現代日本で東大を目指す漫画があったが、それに倣い「ともかく難関大学へ行け」というスローガンを掲げて事業を開始。一日二コマ百二十分。休憩込みで百三十分。科目は理数に絞り、契約した五人で持ち回り、配送担当、塾講師担当、休暇のローテーションを組んで回していく。一ヶ月経つと二十名中十八名が大幅な成績向上。二名が基礎学力の向上に繋がり保護者連中から大きな信頼を勝ち取る。塾の評判は口コミで広がり受講希望者が急増。この勢いに乗って講師役の子供を増やし、追加で教室を開講していった。子供主体の就学支援という事で、学校や図書館などの公的施設を無料で使えるうえテキストは学校の教材で済ませていたから、掛かるコストは人件費だけ。顧客単価は低いながら数を集められるので数字は上がり調子。しかも支出が少ないという非常に優良な案件となる。

 この好調な塾事業を足掛かりに主軸である配送業の拡張にも着手する。

 まず、アシストバイクと徒歩以外にもドローン配送を実装。増益に伴う設備投資である。値は張ったが購入したドローンには高機能AIが搭載されており、自動運転、緊急回避、簡易応答などの機能が備わった業務用ハイエンドモデルである。大手でも使われていて、本来学童には過ぎたオモチャだったが、これが大いに役立った。ドローンの導入により効率は飛躍的に向上し、時間問わずに配送が可能となる。小さな稼働エリアを縦横無尽に駆け回り、町内一帯の市場はあらゆる企業を抑えてアシモフ運送の独占状態となった。


 ここまでくると弊社事業モデルの模倣が出始める。中小零細がこぞって地域密着型の配送を開始。が、配送料の設定で一様に頓挫、大転けの事態。こちらは児童労働による無茶な労務費で回しているのだから当然だ。既存サービスで成り立つ商売ではない。

 そんなわけで、嫌がらせ代わりに独占禁止法に抵触しているのではという指摘などもいただいたが理念と世論と貸借対照表により封殺に成功している。”子供が育む社会への福祉と貢献”を謳っているアシモフ地域配送は名目上一定以上の利益は出ないようにしなければならない。逆にいえば、一定以上の利益さえ出さなければ何をやっても問題ないのだ。これは免罪符であり、行使するにあたって躊躇も余念はなかった。

 そうはいっても実際配送地域を回っていた業者や業務委託者の売上減損に繋がっていたそうで、そればかりは心が痛んだ。なので、彼らには吸収合併、グループ化の話を持ち掛ける。ホールディングスを設立するから足並みを揃えないかと勧誘を行ったのだ。皆、話が分かる方々で、早急に結託。アシモフグループとして托生の仲となった。

 托生となった後に何をやってもらったかといえば、公共事業に使う資材や地域イベントの物販。催事用品、個人商店が発注している食材などの配送である。俺は事業を回す中で地域住民と交流を深め、パイプ作り成功していた。合間合間に商店の手伝いをしたり面倒な自治会の雑務を無償で行ったりしていた事が功を奏したのだ。また、顧客に顔の効くジジババがいたのも大きく、鶴の一声によって締結された契約も少なからずあった。


 規模が大きくなると、エリア外の仕事も取りに行きたくなるのが人情というもの。いよいよ事業を県外へと広げる時がきた。

 進出する際には既存サービスが築いている牙城を崩さなければならない。これは、俺のタレント効果を使わせてもらった。

 この頃の俺には、“少年実業家”、“子供塾長”、“福祉事業児童部長”といった、良くも悪くもマス層が好みそうなフレーズが付いて回るようになっていて知名度もあった。講演を開けばチケットが完売するしライブ配信や動画、テレビ番組(科学が進んでもweb放送に統一されていない事に驚いた)に出れば信者とアンチのコメントで溢れる程度の影響力を有していた。広告塔として、集客が見込めるレベルの話題性があったのだ。

 そこで目を付けたのがチューコである。チューコは独自の配送機能を有していたがサービスの質が悪いという風評被害が発生しており他者配送を利用するユーザーが多かった。実際にプログラムミスが発生していたり粗悪な場合も多々あったのだがあくまで一部であって全体で見ればそこまで酷いわけでもない。全ての原因はチューコの企業イメージからくるネガティブな事象である。そこに発生するリスクとコスト。そして機会損失を防ぐため、アシモフグループとの業務提携と俺の広告キャラクター起用によるイメージアップの提案を実施。チューコに金を出させてドローンと陸送車を購入し事業を請け負うという企画書を出したところあっさりと契約を結ぶ事となり、一部地域での配送の委任が決定。状況と業績次第でエリアの拡大も確約された。


 アシモフグループは想像以上のスピードで大きくなっていき、俺がユニバーシティに入学する際には政府指定の中軸企業にまで発展していた。要因としては、ある程度資本が固まったところでエンタメ業界、飲食業界に参入し、日本式のコンテンツとサービスを展開したためである。世界に誇れるクールジャパンは異世界でも通用するという事だ。実に素晴らしい。


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