この日だけ4
お偉方共々中庭に行くと少しだけ緊張が麻痺してきた。一緒に歩く事によって“行動を共にしている”という認知が働き精神的な負荷が低減したのかもしれないが俺は専門家ではないので分からない。ただ、気を緩めるとろくな事にならないというのは経験則で知っていたから、俺はこの先の試射において起こり得る最悪の事態を想定し、ネガティブなイメージを持ち続けていた。これは悲観とは違う。失敗するケースを想定する事によってより注意深く集中するための思考ルーティンである。
「こちらです」
中庭に仮設したテントへ入る。銃はそこに用意してあって、イラスト通り、拳銃、狙撃中、回転式多銃身機関銃を置いていた。そしてその横に添えてあるフリントロック式マスケットは期間中気分転換に作成したものである。威力も精度も現代式銃に大きく劣るわけだが、今回はこれを噛ませ犬にしようという算段であった。
「それでは試射に入りたいと思います、こちら三丁はイラストでご説明した通りのものですが、別にもう一丁。マスケットと呼ばれるものをご用意いたしました。こちらの構造はより単純なもので、銃身に弾を込めて引き金を引くと激発されます」
「他の物とどう違うのだ?」
「大きく異なるのは着火方式がより原始的という点です。また、弾倉がないため弾と火薬を銃身から入れ発砲いたします。ちなみにライフリングは施しておりません。まずは、最初にこのマスケットの威力と精度を見ていただきたいと思います」
言い終わるとマスケットに弾丸と火薬を詰め込み、的として設置した市販の鎧(シュタインが「これでお願いします」と頼み込んできた)に狙いを定めトリガーを引くと、ポンッと爆ぜる音が響いた。
「……外れましたね」
銃弾は鎧より遙かに横に反れて後の石垣に埋まった。
「全然だめではないか」
「はい。これでは戦場では使えません。これを改良したのが、私共が製作した銃でございます。これより試射を行いますので、今打ちましたマスケットと比較しください。まずは拳銃から始めてまいります」
マスケットを置き、拳銃を手に取った。
ズシリとした重量感とグリップの手触りが肌に吸い付く。
「思ったよりもサイズがあるな」
「手に持つとしっくりきます。このグリップ部分を両手で握りまして、対象から半身になるよう構えます。そこから狙いを定めて、トリガーを……引く!」
発砲。役所の敷地中に爆発音が鳴り響き、そこらにいた鳥が空へと飛んでいった。黒々とした拳銃の砲身からは硝煙が上がり、無骨な美を形作っている。ミリタリーにはそこまでの興味を持っていなかったが、実包の発砲は快楽を伴い、目に映る銃にも官能的な側面を見る事ができた。トリガーハッピーとなるのも分かる。
「命中です」
そして銃弾は見事にヒット。鎧の胴体部に穴が空いた。
「なるほど。威力、射程、制度。どれも十分だ」
「加えて連射も可能です。ご説明いたしましたが、発砲した瞬間に弾倉に込められた弾がブローバックにより自動リロードされる仕組みとなっております。このように……!」
立て続けに拳銃を発砲。ドガン、ドガン、ドガンと騒音が大気を揺らして滅多打ちされた鎧は蜂の巣となった。おぉという歓声とどよめき。そして絶句。三者三様、十人十色の反応がその場に居合わせた人間から寄せられた。
「素晴らしいな。弾は何発入る?」
「今使っているものであれば八発。スリム化すればさらに詰めるでしょうが、銃も弾もダウンサイズするには更に技術が必要でしょう」
「いや、これで十分だ。現時点で完成系であれば無理に発展をさせる必要はない。次の説明を頼む」
「承知いたしました。次は狙撃銃です。先にもご説明いたしましたが、狙撃と名付けてはいるものの、幅広い範囲で使用できる作りとなっております。拳銃よりも大型な弾倉を装填しているため弾持ちも良いです」
狙撃銃はアサルトライフルを参考に設計、開発を行った。なぜアサルトライフルそのものを作らなかったのかというと、構造が難しく俺には再現できなかったからだ。三点バーストもフルオートもできないのではアサルトライフルといえない。まぁ日本一有名な殺し屋もアサルトライフルを狙撃用に使っているのだから、許されるだろう。
「それではいきます……!」
トリガーを引くと弾丸が空気を切り裂き発射され着弾。鎧の頭部に大きな穴が空いた。
「中が空洞ですので貫通するだけに留まりましたが、中身が入っていたら、即ち、生物の頭部だったならば衝撃波によって脳がシェイクされ破裂していたでしょう。無論、頭部以外でも当たればミンチになって吹き飛びます」
「それほどの威力か」
感嘆するシュトームの姿に手応えを感じつつ、俺はガトリングガンの前へ移動した。
「最後。回転式多砲身機関銃です。これはもう、見ていただければ分かりますので、どうぞご覧ください」
給弾、装填、発射、排莢のサイクルを繰り返す手動式のガトリングガン。俺はゆっくりと照準を定め、ハンドルを回した。カラカラと鳴った後、ドドドドドと洪水のような爆音が連鎖し銃弾が掃射されていくと鎧は無惨に砕け散っていった。
「以上です。いかがでしょうか?」
跡形もなくなると、周りの人間はもはや俺の声に反応する事もできず唖然とする他なかった。高速で降り注ぐ鉄の雨の威力はこの時代において神代の域といっても過言ではないだろう。全てを破壊する兵器を手にした俺は、さながら戦争の神か破壊神にでもなったような気がして、全能感に満ち溢れていた。
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