この日だけ3
「随分と形状が異なるな……これらをどのように使い分けるか説明してくれるか」
「はい。それでは、それぞれ想定される状況と効果についてお話しいたします。まずはイラスト一番左。拳銃といいまして携帯用の兵器なのですが、これはハンドサイズで取り回しが容易ながら弓矢やクロスボウ以上の威力を発揮いたします。サーベルで斬り合うよりも余程効果が高いうえ、敵の射程外から打ち込めますので間合いさえ気をつけていれば白兵戦で一方的な攻撃が可能です」
「しかし、こんな小さな作りで本当に弓以上の火力が出せるのか?」
シュトームが懐疑の目を向ける。現代に生きるものであれば例え実物を見ていなくともハンドガンの威力は想像できようが、存在していないのであれば、疑うのも当然である。
「計算上では十倍となりますが、カタログスペックが如何にあてにならないか閣下はご存知かと存じますので、先程も申し上げました通り、後程試射にてご確認いただきたいと思います。というところで、次に真ん中のイラスト。これは狙撃銃と申しまして、拳銃の威力と射程を強化したものです。ロングボウとクロスボウの利点を更に強化して組み合わせたものとご認識いただいて構いません。拳銃よりも重量と銃身がありかさみますが許容範囲内でしょう。"狙撃"としておりますが。有視界戦闘での使用も想定しております。戦場では、この狙撃銃がメインウェポンになるかと思います」
「なるほど。それで、最後は?」
「はい。こちらは回転式多銃身機関銃と申しまして、毎分二百発の掃射により敵部隊に致命的な打撃を与える事ができます。勿論拠点防衛や攻城戦にも大きな効果を発揮するでしょう。ライフルよりも更に大きく重量があり、おまけに弾も食いますが威力は抜群。この回転式多銃身機関銃こそが、現代において最強の兵器であると断言いたします」
「そこまで言い切るか。大した自信だ。ついさっきまで右往左往としていた人間とは思えないな」
「きょ、恐縮です」
シュトームは場を和ませる冗談のつもりで言ったのだろうが、俺は権利者や上司のジョークに対して愛想笑いしかできないタイプである。ありがた迷惑までとはいかないが、余計な気を回されてもそれに報いる事はできない。
「この銃とやら、いったいどうしてこのような威力が出せるのですかな」
隣に座っている髭を蓄えた男からの質問だった。彼が技術部の人間であるというのは事前情報から推察できたが、局長だと知ったのは後日である。
「はい、ここからは技術的な説明に入ります。まず、三丁全ての砲身内部に螺旋状の溝を掘っております。これによりジャイロ効果が生まれ銃弾が安定。精密な射撃性を実現しております。それで、発射される弾丸がどのようになっているかと申しますと、火薬の入った薬莢と弾丸に分かれております。薬莢部分を叩く事によって弾頭が発射。同時に薬莢が排出されます。この際、弾倉に込められた銃弾が装填されますので、ノータイムで連射が可能となっております」
「詰まるところ、弾を爆発で飛ばすわけだ。大砲の小型版といったところかな」
「原理は同じです。しかし、随所に革新的技術を取り入れておりますので、似て非なるものであるとご認識いただけたらと」
「確かに君の言う通りだ。先程から提示された資料を確認しているが、いたるところにかつてない技術が使われている。威力や射程の算出についても緻密に計算されていて、恐らく実際にも数字通りの結果が出るだろう」
「恐れ入ります」
「しかし、あえて問題点を言わせてもらうが、これだけの兵器を生産するためのコスト……俗な言い方をすれば資材と金をどうするかだ。また、大量に生産するには工場にて機械を使った作業をしなければならないと思うのだが、その点はどう考えているかな?」
「そちらについては私からお答えいたします」
横から入ってきたのはシュタインだった。
「資材に関しましては発注済みであり、十分な量を確保しております。工場の方も既に押さえました。シュトルトガルド郊外にある食器工場を土地ごと買い取り必要な機材も揃えております。これに掛かる費用は全てシュタイン家が責任を持って用意しておりますので、ご心配は無用かと」
「なんと。自前でかね?」
「それだけの価値はあると考えております」
資材に関してはともかく、土地と工場まで買って準備していたとは知らなかった。素晴らしいスポンサーであるが、さすがに申し訳なさが勝り、撃ち抜いた甲冑の費用くらいはなんとか弁償してやろうと密かに誓った。
「計算上は実戦に耐えうるうえ、生産体制も万全というわけか。抜かりがない。しっかりと準備をしていただいたようで、こちらも気分がいい。だが、私が見ているのは絵と文章だけだ。細かい説明もよいのだが、そろそろ実物の方を確認したい。いかがかね、ロルフ君」
「は。ご用意できております。大変恐れ入りますが皆様、中庭までご移動願います。試射は外で行います故……」
プレゼンはまだ続く予定だったが、シュトームから「さっさと実銃を見せろ」と要望があったため、ここで中断、あるいは終了となる。めでたく第一段階はクリアした。なんとか巻き返し感触は良好。ナイスな結果に一安心。だが、次はいよいよ射撃テストである。制作した銃の信頼性は高いものの、ここで失敗したら取り返しがつかないため気を緩める事はできない。ジャムや暴発などが起きない事を祈るばかりである。
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