この日だけ2

「結構。それで、どのようなものを作ってきたのか、早速見せてもらいたいのだが」



 単刀直入。フィッシャーとハイスラーがそれぞれ挨拶を終えると、シュトームは間髪入れずに銃についての説明を求めてきた。

 シンプルな展開に少し気が楽となる。前置きも装飾もないなら相手の言動の裏を深く読んでしまって焦る事もない。脳の負担も軽減されるというものだ。極度の負荷状態なのは変わらないが余裕はまだあり、話はできそうだった。




「承知いたしました……私どもがこの度開発いたしましたのは、高火力、長射程で、速射や連射が可能な兵器でございます。これが量産され戦地で運用されたあかつきには魔王軍との戦力差を質で埋める事ができ、現在の戦況を覆す事が可能です」



「戦況を覆すとはなんだ! 人類は常に優勢だ!」



 警護の人間が割って入ってきて一時中断。怒号に竦み上る。

 本来、彼らに発言権はない。口を開く事ができるのは着席している人間だけで、彼だって承知していたはずである。それをあえて乱したというのは、余程戦時教育が行き届いているという事。末期的だ。


 縮みあがる俺を見たシュトームは発言した男を手で制すと、改めて姿勢を正し、氷色の目でこちらを射した。



「失礼、続けたまえ」



「は、はい……」



 動揺した俺は一呼吸でリセットを試みるも回復は遅い。萎縮し、また汗の生ぬるさを感じる。



「そ、それでは続けさせていただきます……えー……まず最初の……あ、資料をめくっていただき最初のページを……あ、申し訳ありません、その次ですね……」



 再開した俺の語りはたどたどしかった。先の一喝のおかげで脳の処理に異常が生じたのだ。動悸と発汗。次に何を述べるべきか空白となり、そもそもなんという言葉を使いたかったのか思い出せなくなる。インデックスが抜け落ちた辞書をリアルタイムに引きながら適切な単語を選び出すような作業がスムーズに運ぶわけがない。口を開いて「あの」「えっと」と間を繋ぐもそれは逆効果で、待っている方も待たせている方もうんざりとしてしまう。入学式の二の舞。かつて演じてきた失態と同じ轍を踏む事態。予想していた通りではあるもののメンタルを短刀で刺されるかのような苦しみがあった。周りの目を気にし、思惑を想像しては冷や汗と悔しさが間欠泉のように吹き出てくる。目の前が不安定となり、輪郭が捉えられない。もう駄目だという雰囲気。




 いや、駄目だ。諦めては……このままでは駄目。仕切り直さなければ……!




 いつもならこのまま情けないままで続行するところであるが、今回ばかりはそうはいかない。俺には使命があったし約束があった。簡単には諦められない。




「申し訳ございません。一旦、落ち着かせてください」




 目を閉じて深呼吸をする。一、二、三、一、二、三と数字を数える。深い意味があったわけではなく完全にその場の思いつきだったが、何か変えなければいつも通りの無様を晒すだけにしかならない。アインシュタイン曰く、「狂気とは同じ事を繰り返し違う結果を期待する事」。とにかく、今回ばかりは「仕方ない」で諦めるわけにはいかなかった。いつもとは違う、成功という結果を残すために、俺は行動をしなければならなかったのだ。




「失礼いたしました。続けさせていただきます」




 思いの外、瞑想の効果は高かった。



 恥はかく。上手くできなくても仕方ない。しかし、伝えたい事は絶対に伝える。



 玉砕覚悟の精神状態。開き直りといえばそれまでだが、それがどうしたという話だ。時代の影に沈みながら「なんともならない」と受け入れるより、とにかく足掻いて、「なんとかしなければ」とあの手この手を尽くさねば、俺の気持ちが収まらなかった。潔さも諦めもいらない。どれだけ不恰好でも、スマートでなくても、戦ってやろうと決めていた。怖気づいて自分から逃げてしまっては、今日ここまでやってきた意味がない。やってやるのだと気合いを入れ、絶対に負けはしないと誓った。まずは、あの警護の人間から受けた恐怖を取り除かなくてはならない。やり返してやろう。そう決めた。




「人類側は優勢かも知れませんが攻めあぐねているのも事実でございます。先を見越した戦略、芸術的な戦術、そして、勇猛果敢な兵士の方が揃っている事は存じておりますが、決め手に欠き、戦況は長引いている。その認識に相違はございませんか」




 先程大声をあげて怒鳴り散らかした警護の方へ目をやった。彼は明らかに不貞腐れていたが、シュトームによって手綱を握られているため返事はできなかった。所詮は使われている人間である。ざまぁみろだ。




「そこで今回、我々は現状を打開する兵器を開発。これを、銃と名付けました。実物は試射の際にご覧いれますので、まずは資料に書かれているイラストを基に説明をいたします」




 資料には大袈裟な銃のイラストが三丁描かれている。それぞれ、自動式拳銃、狙撃銃、回転式多銃身機関銃である。そうとも。俺はこのプレゼンまでに、リボルバーからブローバック式オートマチックピストルとライフルとガトリングガンの開発に成功していたのだ! 



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