2.夜の楽しみ
着物少女が、夜道を番傘を差して歩く。
「はんなりはんなり、一夜一夜に人見ごろと」
今日のお月様は、大変綺麗でござんすね。
こんな日には、きつねうどんを公園のベンチで食べるのが風流でありんすな。
近くで、今開いてるお店は、二十四時間営業スーパーの地雷屋しかない。
長財布を確認すると、千円札が一枚のみ。
「月末は、いつも厳しいでござんすな」
お湯を借りて、カップうどんの五分。うちは、うどんの麺の柔らかさは、柔めが好きなので七分待ち。
「月見うどんとは、乙なものでありんす」
蕎麦にうどんを、ズルズルと音を立てて食べるのが、日本人の嗜み。
しかし昨今は、音ハラというものにも、気を付ける必要があり。
世知辛い世の中だと、思う。それと同時に、仕方ないとも、思う。
どっちが正しいとかではなく、そうすることで普通でいられるなら、うちはそうする。
しかしここは、夜の公園だから。一目を憚る必要はない。
「ズルズルッ、ゴクッ」
堪らない。
「うどんサイコー」
素が出てしまった、でありんすな。気を付けなければ。
月明かりに照らされ、汁に染みたお揚げを頬張り。そしてコクコクと、甘いだし汁を飲む。
「甘美」
カップうどんだけでは物寂しいので、誘惑に負けて買った鮭マヨおにぎりの包みを開く。
こういったおにぎりは、冷えているからいいのだ。熱々のおにぎりも、好きだけど。それとはまた違った良さがある。
白い粒々を噛みしめ、明日の食事のことを考えると涙が出てきた。
「働けたらな~」
夜しか外に出られないので、インターネットで動画投稿主などもやってはみた。
しかしボサボサ髪でTシャツ姿の私を、見てくれる人は変な人しかいない。
インターネットのコメントは、ちょっと怖い。
コメントで眼鏡可愛いね、から始まり。素性などを聞いてくる人がいる。眼鏡については、伊達眼鏡なんですがね。
うちに対して、投げ銭をしてくれる人はいるけど。とにかく、えっちな要望が多い。
脇や、おへそを見せてほしいとか、Tシャツを捲った姿が見たいなど。投げ銭をするから、やってほしいとしつこいのだ。
もちろん、やってないから。こうして貧乏生活を送っているんだけど。
こうなったら内職でも、始めてみようかな?
何とか、貧乏生活を脱せねばな。明日のうち、頑張れ。
…カップ焼きそば食べたい。
公園に生えてる野草でも、摘んで帰ろう。
「はんなりはんなり、一夜一夜に人見ごろと。眠いでありんすな」
宵闇を遮る、番傘を抱えた着物少女は、街明かりに溶けていった。
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