1-6

「紹介? なにを」


「流れでわかんだろ。転校生ちゃんだよ」


「なんで俺?」


「面識あるんじゃねえの? 昨日も会ったんだろ」


「会ったって、本当に会っただけだし。紹介できるほどの間柄じゃないからね」


それより英語の宿題なんだけど。


「なあんだ。面白くねえの」


「会長使えなーい」


「……ごめんなさいね」


全く失礼なクラスメイトだ。気軽でいい。





毎週火曜日に開かれる全校集会は、生徒会主体で行われる。


毎回、千人ほどの生徒が体育館に詰め込まれる。


はじめの挨拶を済ませた森山は、生徒会役員席で会の進行を見守った。


檀上の真下にあるその席は、他の生徒と向かい合う形で設置してある。


床に座らされている全校生徒の、その全ての視界に自分が映りこんでいる気がして、どうも落ち着かない。


「では次に転校生を紹介します」


放送委員長の言葉を皮切りに、生徒がざわつきだす。


「静かに」と、冷たく言い放つのは副会長。


「……はじめまして。柊 莉子です。えーと……よろしくお願いします」


マイクを渡された柊は、俯きながら、簡単な自己紹介をする。


自己紹介と言っても、名前しか言ってないが。


「緊張してんのかなあ……」


小さく呟いて、森山はその様子を眺めた。


「あ」


ポトリと落とした声に、副会長が振り返った。


「どうしました?」


「あ、いや、なんでもない」


「……そうですか」


怪訝そうな顔のまま、副会長はまた前を向いた。


(目が合ったな……)


だから何って感じだけど。

森山は苦笑した。


「変な噂」の意味は、既に理解できていた。




「なにしてるの、あのひと」


ぽつりと呟くその声は、誰に届くわけでもない。


少しクセのある黒髪を、目にかかるほど伸ばして。

中性的な顔立ちと、男のわりに華奢な体。


3年前と、なにも変わっていない。

それなのに、すぐに彼だと気づけなかったのは……。


転校生である自分を紹介する、担任の声は上の空だった。


柊は指定された席から、ただ漠然と新しいクラスメイトを眺めていた。




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