1-5

「……っ!!」


すると、さっきから怪訝そうに彼を見ていた柊が、突然息を呑んだ。


同じように目を見開き、恐る恐る、口を開く。


「まさか……、森山もりやま ゆう……?」


彼女の口から自分の名前が出て来た事により、確信はさらに絶対となり、記憶の中の感情が森山を支配した。


大切なものを失くした虚無感、憎しみ。

一度溢れ出したら止まらない。

それこそが、今の彼の原点。


「かいちょ……」


「え、ああ、ごめん。このヒト同じ中学出身なんだよね。ほら、ミナミ中学校。いきなり再会したもんだから驚いちゃってさ」


森山は、電池を入れ替えられた時計の針のように、またいつもの口調で柔らかく笑う。


副会長は彼のその態度に何かしらの違和感を抱いたが、それを言葉には出来なかった。






「会長さん、おーはーよー」


「……なに」


翌日の朝。

教室のドアを開けた途端、10人ほどのクラスメイトに囲まれる。


その中には、オサムやユウタも居る。


「なにってなに?」


「いや、君ら怪しすぎ。俺リンチでもされるの?」


「会長、発想が物騒だな」


「まったくだ。リンチして欲しいならしないでもないけど」


いや、やめてくれ。森山は苦笑した。


「じゃなくてさあ。転校生だよ、転校生!」


「今日来るんでしょ? 女の子なの?」


「美人らしいじゃん」


「……ああ、そういうこと」


納得して頷く。

好奇心の塊が、自分に向けられているのだ。


「まあ綺麗な子だとは思うよ。どうせ、この後の全校集会で紹介されるし。でも……」


「でも、なに?」


「……いや。てか、2年生だし君ら関わりないと思うよ」


「まじかあ」


自分の席に向かうため、入り口を塞ぐ人の壁を押しのける。

しかし彼らは、金魚のフンのようにあとをついてきた。


鬱陶しいが、なんだか可笑しいので好きにさせておく。


「あ、誰か今日の英語の宿題……」


「じゃあさ、会長が紹介してくれればいいじゃん」


「は?」


オサムが名案とばかりに笑みを浮かべる。










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