1-2

最後の窓を開け終わり、彼女は「あ」と声を上げた。


「そうだ、会長。今日は何の日かご存じで?」


「んー? 俺の誕生日?」


「え、誕生日なんですか?」


「え? 違うよ?」


「……。今日の放課後、職員室にって学年主任のヤマダ先生に呼ばれていたでしょう」


「ああ、そういえば。転校生が来るんだっけ」


「明日からこの学校に通うから、挨拶に来るらしいですよ。

会長はその生徒に学校説明をするという役目です。私は補佐としてついて行きます」


「それは先生の仕事じゃないかなあ」


「とにかく。忘れないでくださいね?」


「りょーかいしました」


怪しむような副会長の目を受け流し、少年は自分の教室に逃げた。3年9組。




「お、来た会長」


「おはよっす、会長」


元気のいいクラスメイトの声に、苦笑を返す。


「会長って呼ぶのやめようよ」


「だって、お前生徒会長じゃん」


それは間違いないんだけどね。

彼はため息をついた。もはや、あだ名と化している「会長」。


名誉ある役職も、連呼されると馬鹿にされている気がしてならない。


クラスメイトと雑談を交わし、自分の席に向かう。


「あ、そうだ。オサム。数学の宿題やってきた?」


「なに、会長やってねえの? 見せねえよ、俺」


「えー、ユウタは?」


「俺? ノート見せようか?」


「まじで?」


やった。オサムの冷めた視線を背中に感じながら、彼はノートを受け取る。


「いやー、優しいね。誰かさんがケチだからさあ、参っちゃうよね」


「誰がケチだ。だいたい会長、頭いいんだろ。自力でやれよ」


「……んー、てか、ユウタ、宿題どこにやってる訳?」


ノートをめくりつづけながら、首を傾げる少年。


「え? 宿題なんかやってないよ?」


「……は?」


「俺ノート見せるとは言ったけど、宿題やってるとか一言も言ってないし」


「…………」


「ユウタ、ナイスプレー」


けらけら笑うオサムを睨む。


「この学校、どうなってんの。ろくな生徒がいないよ」


「まあ、アナタその代表ですけどね。会長」


おかしい。

生徒会長って、もっと威厳とか、そういう……。


「じゃあ私の写す?」


「え?」


突然降って来た声の持ち主に視点を合わせれば、そこには隣の席の女子。


彼女はノートを差し出して微笑んだ。


「えっ、ほんと? いいの?」


「うん。間違ってるかもだけど、森山くんがそれで良いなら」


「女神。最高。ありがとーございます!」


両手を合わせて、感謝の気持ちを示す。


それから、少年、森山はノートを受け取った。


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