1.噂-1
「さむい、すごくさむい」
学ランの上から腕をさすりながら、少年はぼやいた。
摩擦熱を期待したのだが、あまり効果は無かったらしい。
その両手はポケットに収められる。
しばらく唸りながら寒さに耐えていた彼だったが、
何かをひらめいたのか、「あ」と再び声をあげた。
「雪だ。大変だ。窓を閉めよう。校舎の中に入って来ちゃう」
「どこに雪が降っているんです。まだ11月ですよ?」
伸ばした手は、素早く叩き落とされた。
それから、またひとつ窓を開ける少女。
眼鏡の下のつり目がこちらを睨む。
吹き込まれる風で、長い黒髪がなびいた。
少年は不服そうに口をつぐんだ。
なんとなく、外を眺める。体育祭で数々の死闘が繰り広げられたグラウンドも、今はその活気を失っている。
今しがた開け放たれたばかりの窓から、冷気が注ぎ込まれる。
それを顔で受け止めながら、彼は身震いした。
伸ばしすぎた前髪が、風で揺れる。
「あー、やっぱり寒い。何で窓開けなくちゃいけないの。副会長は開けたがりなの?」
「意味がわかりませんが。私が理由の無い行動をすると思いますか? 換気です。インフルエンザの流行に備えているんです」
「いや、早すぎるわ。あいつら、あと2か月は来ないよ」
「甘いです。会長はインフルエンザの恐怖をわかっていません」
「俺には君のほうがよっぽど怖いけど」
少年は次々と窓を開く手を恨めしげに眺めた。
おかげで朝の廊下はシベリアと化している。
こんなに寒いとインフルエンザの前にみんな風邪で倒れてしまう。
いまだに隣で文句を連ねる彼を横目に、少女はため息をついた。
自分より年上なのに、それどころか生徒会長なのに、全くそれらしくない。
こんなことで良いのだろうか、とたまに心配になる。
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