おやすみ、ゆっくり。


 仲良くなって、酒の勢いで大人の関係へ。


 そんな彼女と久しぶりに同じ休みだったから、そのまま二人で飲みに行き、案の定ベロベロのまま事に及んで、彼女の部屋で目を覚ました午前5時40分。


 せっかくの休みなのに、微妙な時間に起きてしまったと身体を起こせば、ぼんやりとテレビを見つめる彼女に気がつく。


「おはようございます」

「おはよう、てか起きてたの?」

「なんか、寝付けんくて」


 少しでも寝て体力は温存しといた方がいいよ、明日も仕事でしょ、と声をかけると、曖昧に微笑むかりんちゃん。その笑顔がなんだか悲しそうに見えて、何とかしてやりたいと思うものの、何が彼女をそんな顔にさせたのかがわからない。

 そんな風に、言葉を紡ぎあぐねていたら、ふとつきっぱなしのテレビにスマホゲームの短いCMが流れた。


「……私ね、前の会社ではいっぱい仕事任されてたんですよ」


 ぽつりと呟かれた言葉に、へ? と間抜けな声を上げると、寂しげな表情でこちらを見詰める彼女。


「でもね、結局、一番大切にしてたことを、最後まで責任持ってやりきるってことを、放棄したんです。まあ、最後までやってたら、何か変わってた、とは思わんのですけどね」


 それでも、悔しかった。


 その言葉で漸く、彼女の前職がゲームの開発をやっている会社で、そこがそれなりにブラック企業で、かりんちゃんは、生きるか死ぬかの瀬戸際で辞めたらしいと、鳩山くんから聞いた話を思い出した。

 その時に任されていた仕事を、放棄してしまったことを後悔しているのか。


「結構色んなゲーム作ったんですよ、私」

「知ってるよ、私は今もわりとがっつりゲーマーだからね、知ってた?」

「知ってますよ」


 ふふ、と笑った彼女は、


「今更や、女々しいて、思わはったでしょ? 」


と問い掛けてくる。


「そんなことないよ」


とも言いたいし、


「その通り、はやく忘れてしまえ」


とも言いたい。


 けれど、どちらの言葉も喉がせき止める。だって、過去は変わらない。なかったことにもできない。

 

「白鳥さん?」

「かりんちゃん、明日も、頑張ろう?」


 精一杯捻り出した言葉とともに、彼女の身体を抱き締め頭を撫でれば、小さく鼻を啜る音が聞こえた。


「おやすみ、ゆっくり」


 あやすように、優しい声色を出す自分は彼女よりは大人で、そして、彼女の悲しみを拭いされる程には大人でない。それが少し、悔しくはあるんだけれど。

 

 こうやって、啜り泣きを聞こえないふりするくらい。こうやって、肩を貸すくらい。嫌なことがあったら、愚痴を聞くくらい。

 

 そんなことくらい、いつでも先輩がやってあげるから、頼っておいで。

  

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