第2話 転生

 半年前の事。


 気が付いた時は暗くて狭い所にいた。


 体を動かそうにもギュウギュウ詰めで身動きが取れない。


 それでも何とか体を動かすと、両隣からも動きが伝わってくる。


 誰か他にもいるのかな。


 すると優しく撫でられながら誰かの話し声が聞こえてきた。


「ほら、動いたよ。随分と元気がいいな」


「本当に。だけど、まさか3人もこの中にいるなんて想像もつかなかったわ」


「双子でも珍しいのにな。間もなく出産だろう? もう人型になるのは止めて、そのまま横になってろよ。もう動くのも億劫だろう?」


「そうさせてもらうわね。生まれて来るのが楽しみだわ」


 どうやら僕は赤ん坊に転生したみたいだ。


 だって普通の大学生として生きていた記憶があるんだから。


 どうして死んだのかは思い出せないけれど、こうして生まれ変わろうとしているんだから新しい人生を楽しむ事にしよう。


 それにしてもこの夫婦の会話に出てきた「ヒトガタ」って何のことだろう?


 その数日後、出産が始まった。


 僕より先に他の二人が産道を抜けて新しい生命として誕生した。


 次はいよいよ僕の番だ。


 ところがなかなか産道を通り抜けられない。


 ようやく外に出られた、と思ったら何かの膜に覆われているようだ。


 どうやら羊膜にくるまったまま、生まれてきたみたいだ。


「よしよし、ようやく生まれたな。今膜を破ってやるぞ」


 父親の声が聞こえて僕の体を包んでいた羊膜が破られ呼吸が出来るようになった。


「ケフッ、ケフッ」


 あれ?


 産声ってオギャーじゃなかったっけ?


 何だか様子がおかしいぞ。


 そのうち体を舐め回されているような感覚に襲われた。


 それにまだ目が開かないようで何も見えない。


「どうした? お兄ちゃん達はもうおっぱいを飲んでるぞ。お前も飲んでごらん」


 そう言って父親が僕の体をひょいと持ち上げて母親の乳首に吸い付かせる。


 一生懸命に乳首に吸い付くけれど思うようにお乳が出てこない。


 そのうちに疲れてウトウトしだした。


「あらあら、この子ったら寝ちゃったわ。起きなさい」


 母親の声が聞こえてまた体を舐められるような感覚に陥った。


 何か変だ。


 それにお腹が下になっているような態勢に違和感を覚える。


 生まれたばかりの赤ちゃんをうつ伏せなんて聞いたことがないぞ。


 それに産湯にも浸からないし、服も着せられてない。


 まさか僕は人間じゃなくて動物に生まれ変わったのか?


 新たな人生を喜んだのも束の間、まさか人外に転生したとは思わなかった。


 まだ目が見えないから自分がどんな生き物に生まれ変わったのかはわからないけれど、この命を大切にしよう。


 それにしても両親の話す言葉は日本語に聞こえたんだけど、脳内変換されてるのかな?


 そして僕達3人に名前がつけられた。


 最初に生まれた兄がアーリン、次兄がビリー、そして僕はシリルと名付けられた。


 そうして生活しているうちに父親の名前がダニエル、母親の名前がエレノーラだと判明する。


 だが、そこでもまた不可解な事があった。


 僕達の体をひょいと持ち上げる父親の手は紛れもなく人間の手だった。


 まさか父親が人間で母親が動物?


 そんな事があり得るのか?


 最初は飼っている動物が出産したのかと考えたが、二人の会話はどう考えても夫婦の会話だった。


 それに人間と動物が話が出来るなんてあり得ない。


 ここは一体どういう世界なんだ?


 まさかの異世界転生なのか。


 そのうちに薄っすらと目が見えるようになってきた。


 最初に見えたのは隣にいる兄さん達の姿だった。


 そこにいたのは黄金色の毛並みの狐だった。


 だったら僕も同じ色の狐かな。


 そう思って自分の足を見るとそこには真っ白な毛並みの足があった。


 白、というよりは銀色に近いかな。


「お、目が開いたな。そろそろ見えるようになったかな」


 そう言って僕の顔を覗き込んだ父さんの頭にあったのは狐の耳だった。


 肩まで伸ばした金髪に金色の瞳のイケメンだ。そして体の後ろには3本の狐の尻尾が揺れている。


「そうみたいね。私もお乳をやる時以外は人型に戻るわ」


 そう言って母さんは僕達がいるベッドから飛び降りると、狐の姿から人間へと変わった。


 こちらも金髪のロングヘアに金色の瞳の美人でその頭にはやはり狐の耳があり、こちらも3本の尻尾を持っていた。


 母さんは手を伸ばすと僕達を順番に抱っこしていった。


「こうやって自分の手に抱き上げられるのを待ってたわ。狐の姿だと思うように撫でられないもの」


 そして僕を抱き上げると「あら?」と声をあげた。


「シリルは随分と小さいわね。同じくらいにお乳を飲んでると思ったのに…」


「おまけに毛の色が白だからな。まさか僕の息子に白狐が生まれるとは思わなかった」 


「毛の色なんて関係ないわ。皆可愛い私の息子よ」


 母さんは僕達3匹をまとめて抱っこしてご満悦だけど、眠たいからそろそろ勘弁してほしいな。


 こうして僕は新たな人生を狐の獣人として送ることになった。

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