第3話 成長

 どうやら狐の獣人に転生したらしい僕は専らお乳を飲んでは寝て、また起きてお乳を飲んでは寝るという生活をしていたが、やがて徐々に動けるようになっていった。


 モソモソと這い回るだけだったのが、四つ足で立てるようになり、少し歩いてはコケたり、前につんのめったりしていた。


 兄さん達も同じような行動をしているが、僕よりは成長が早いようだ。


 僕よりも早く立ち上がり、歩き出し、そして少しだけ走れるようになった。


 僕が兄さん達に追いつく頃には、兄さん達はすぐその先に行ってしまう。


 その事は父さん達も気付いたようだ。


「なあ、エレノーラ。シリルの奴、成長が遅いと思わないか?」


「ダニエルもそう思う? お乳だって同じくらいに飲んでいるはずなのに、どうしてこんなに小さいのかしらね?」


 父さんと母さんは僕達を代わる代わる抱き上げては、僕の成長が遅いのを訝っていた。


 僕も兄さん達に早く追いつきたくて一生懸命頑張ってお乳を飲んでいるんだけどな。


 同じ日に生まれたのに兄さん達と差があるなんて、どうやら僕は『みそっかす』と呼ばれる存在のようだ。


 毛の色だって多少の色の濃さはあるものの皆は普通の狐の毛色なのに、僕だけは白というよりはシルバーに近い色だ。


 それでも父さんも母さんも兄さん達も僕を除け者にする事はなかった。


 僕達は柵のあるベッドにいたけれど、成長するにつれてそこから降りてみたくなるのは当然だった。


「こんな狭い所じゃなくてもっと広い所で走りたいよね」


「この下に降りたら広いよね」


「でも今は父さんも母さんもいないよ。どうやって下ろしてもらうのさ?」


「そりゃ、自分で降りるに決まってるだろ」


 そう言うなりアーリン兄さんは柵によじ登ると、そこから一気に飛び降りた。


 ちょっと着地に失敗したものの、すぐに起き上がり得意そうに僕達を見上げた。


「僕も行くよ」


 ビリー兄さんも柵に登ると、フリフリと尻尾を振って飛び降りた。


 ゴロンと一回転して起き上がるとブルブルと頭を振った。


「イテテ、ちょっと失敗しちゃった」


 僕も飛び降りたかったけれど、兄さん達とは体の大きさが違うから、まず柵に足が届かない。


 必死になって背伸びをするけれども、僕の前足よりも更に高い位置に柵のてっぺんがある。


 爪先立って前足を伸ばすと、バランスを崩して後ろにコロンと転がった。


「シリル、無理するなよ」 


「柵の隙間から出られないか?」 


 兄さんに言われて柵の隙間から頭を出してみるとスルッと通った。


 これならいけるかも。


 頭が通った事に気を良くして体も通り抜けようとしたが腰の骨がつかえて出られなかった。


 柵から腰を抜こうと必死に体を前に出すと、あれだけきつかった腰が急に抜けて、スルリと体が宙に浮いた。


「わわっ! 落ちる!」


「シリル!」 


 母さんの声が聞こえると同時に、床に叩きつけられると思った僕の体はふわりと宙に浮いていた。


 宙に浮いた僕の体はゆっくりと床に着地していった。一体今何が起きたんだ?


「危なかったわ。それにしてもアーリンとビリーがベッドから降りられるようになったなんて子供の成長は早いわね」 


 母さんは呆れたように言いながら僕を抱き上げた。


「シリル、怪我はない? 咄嗟に魔法で受け止めたけど間に合ったかしら?」


 どうやら母さんが魔法で僕を助けてくれたようだ。


 狐の獣人に生まれ変わっただけでなく、まさか魔法が使える存在に生まれ変われるなんてラッキーだな。


 それからこっそりと魔法の練習をするのだが、何故か上手くいかなかった。


 おかしいな。


 こんなはずじゃなかったのに…。


 兄さん達が柵を飛び越えられるようになったので、僕達の寝床も少し低い位置に変えられた。


 柵はなくなったが、高さが15センチ程度なので、自由に上り下り出来る。


 自由に動き回れるようになったのに、何故か釈然としなかった。


 僕もあの高さから飛び降りられるようになりたかったのにな。


 生まれて3ヶ月が過ぎた頃、父さんと母さんは僕達を集めてこういった。


「お前達ももう生まれて3ヶ月が経ったからな。そろそろこういう人型になってもおかしくない頃だ。さあ、人型になって僕達に見せておくれ」

 

 突然の事で僕達は困惑して顔を見合わせた。


 人型になれるのはもっと先だと思っていたからだ。


「人型になるってどうしたらいいの?」


 アーリン兄さんが尋ねると父さん達はあっさりとした答えをくれた。


「簡単だよ。人間の姿を思い浮かべるだけでいいんだ。アーリンからやってごらん」 


 父さんに促されてアーリン兄さんから人型になる練習を始めた。


 僕達がアーリン兄さんに注目していると、兄さんは目を瞑って気持ちを集中させた。


 すると一瞬でアーリン兄さんの姿が狐から2~3歳の男の子の姿に変わった。


 髪の毛は父さん達と同じ金髪で水色の瞳をしている可愛い男の子だ。


「よし、いいぞ、アーリン。次はビリーだ」


 ビリー兄さんもアーリン兄さんと同じような顔の男の子に変化した。


 三つ子だから顔が似てるのは当然だな。


 ただ、ビリー兄さんの瞳は父さん達と同じ金色だった。


 最後は僕の番だ。


 四人が見守る中、僕は意識を集中させた。


 人間の姿になるんだ。


 体が変化していくのを感じていたが、何かが違った。


 あれ?


 気が付けば僕は生後3ヶ月位の赤ん坊の姿になっていた。


 何故?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る