第17話

 私がセシルと一緒に、保健室で休んでから一時間が経った。


 もういいからと言って、彼に教室に行くように促すが。なかなか、動いてくれずにいた。


「あなたを置いて行くのは心もとなくて」


「そんな事を言っていたら、が困るでしょ!」


「……ルイゼ」


 セイラもとい、セシルは困り顔だ。どうしたら、行ってくれるのか?

 私は仕方ないとため息をついた。


「セイラ、私は本当に大丈夫だから。何だったら、先生が良いというまではここにいるわ」


「わかった、約束だからね。お昼休みになったら、また様子を見に来るわ」


「ええ、心配をかけてごめんね」


 私が言うと、セシルは苦笑いする。肩に手を置いてから、本当に行ってしまう。それを見送ると私はさてと息をついた。

 ベッドに横になる。まずは、セシルが女装から開放される手立てを考えないといけない。

 となると、一番の難関はセシルの伯父に当たる国王陛下だろうか。二番目の難関は私の母方の祖父であるソアレ侯爵。

 三番目はセシルの家族に私の家族だろうか。確か、セシルには父君はいないはずだ。

 私は頭の中の知識を引っ張り出した。セシルの父君は今は亡き王弟殿下で、母君はさる伯爵令嬢だったらしい。二人がある時に恋仲になり、生まれたのが彼だと聞いた。が、父君は馬車の事故で亡くなり、母君と路頭に迷う生活になるくらいには困っていたと祖父の侯爵が言っていたかしら。

 後は、セシル本人に聞くしかないけど。


 私はゴロンと寝返りを打つ。まずは、私の家族やセシルの母君を説得しようか。母君は王城のある離宮にて、暮らしていたはずだ。なら、セシルに頼んで連れて行ってもらうか。いや、それはやめておいた方がいいわね。じゃあ、どういうツテを頼るべきか。よく考えたのだった。


 私が約束した通り、お昼休みがくると。セシルが様子を見に来た。まだ、先生は戻っていない。けど、おかげで頭はスッキリした。


「よかった、ルイゼ。顔色が良くなったみたい」


「うん、ゆっくりと休んだおかげかも」


「昼食は食べられそうかな?」


「たぶん、軽くなら大丈夫かも」


「わかった、なら。中庭に行きましょう」


 私は頷いた。セシルと一緒に中庭に向かった。


 セシルはわざわざ、私の昼食もといお弁当を作って来てくれていた。私の体調を気遣ってか、内容は小分けにしてある。量もそんなに多くない。ポテトサラダにサンドイッチもキュウリのピクルスやハムが挟んである物や、ゆで卵をマヨネーズで和えたのを挟んである物の二種類がある。また、鶏のささ身肉を細く裂いて野菜と和えたサラダとあっさり系でまとめてあった。味は甘酢でつけてあったが。


「ありがとう、凄く食べやすくて美味しいわ」


「口に合ったなら、良かったわ」


 お礼を言うとセシルは嬉しそうに笑う。二人で話しながら、しばらくは食事に勤しんだ。


 お昼休みが終わると、一緒に教室に戻る。途中で姉と出くわした。


「……あら、ルイゼ。体調は良くなったの?」


「はい、すっかり良くなりました」


 私が頷くと姉はほっとしたような表情になった。


「今後は夜ふかしをさせないようにするわ、あなたも気をつけてね」


「はい」


 再び頷くと、姉は手を振りながら自分の教室に戻っていった。私はセシルと一緒に戻ったのだった。


 あの後、授業を受けて放課後を迎えていた。私はカバンに筆記用具などを入れて、帰る準備をしている。


「……やあ、ソアレさん」


「あら、ライカ殿下」


「君、午前中はいなかったけど」


「ああ、体調が優れなくて。保健室で休ませてもらっていました」


「そうだったのか、なら。いいんだ」


 ライカ殿下はそう言って自身の席に戻った。私は立ち上がると、教室の扉口に向かう。先にセシルが待っていてこちらにやって来る。


「では、行きましょう。ルイゼ」


「うん!」


 頷くと、私はセシルと二人で馬車の停車場に行った。それを意味深に見るライカ殿下の視線には気づかなかった。




 


 


 


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