第6話

 自己紹介を無事に済ませて、先生からは今後の予定が書かれたプリント用紙が配られた。


 それがクラス全体に配布されたら、各自解散となる。私は教室を出て我が家の馬車に向かおうとした。

 ところが、亜麻色の髪の女子生徒もとい、セイラがこちらに近づいてきた。驚きながらも私は足を止める。


「……あの、ソアレ様。ちょっとよろしいでしょうか?」


「はあ、何でしょう?」


「いきなり、呼び止めてすみません。ソアレ様は殿下と親しげに話をしておられましたけど。知り合いでいらっしゃるのですか?」


 初対面で訊くようなことだろうか。あまりの不躾な質問に内心では、眉を潜めた。けれど、平静を心がける。


「いいえ、今日が初対面です」


「ですよね、殿下が普通にしていらしたから。つい、誤解してしまいました。失礼しました」


「……では、私はもう行きますね。ご要件はそれだけでしょうか」


「はい、それだけです」


 セイラはあっさりと引き下がった。私は狐につままれたような気持ちで彼女を見送る。けど、ちょっと違和感が拭い去れない。セイラってあんな子だったろうか?

 むしろ、明るくて素直な子だったように思う。それに、背丈が私より十センチは高かった。声も思いの外、低いような……。体格も女子としては華奢とは言いにくいし。

 ううむ、姉にそれとなく訊いてみようかな。首をしきりと捻りながら、馬車のある車宿りへと急いだ。


 姉がレウィシアやロバート、リチャード、マーベルとの五人で待ち構えていた。レウィシアとロバートはやはり仲が良い。朝方に会った時と変わらないというか。


「……ルイゼ、終わったの?」


「はい、姉様」


「なら、一緒に帰りましょう」


 姉はそう言って、私に手を差し伸べた。自身のそれを重ねたら、キュッと握られる。暖かくて柔らかな手は母を思い出させられた。ちょっと、懐かしくなる。鼻の奥がツンとなった。


 馬車に乗り込むと、何でかロバートも一緒になった。


「……ロバート、あなた。セーレイン公爵家にまで来るつもり?」


「そうだよ、ひと時も君とは離れたくないしね。なのに、ロッテはルイゼ嬢の事ばかり。ちょっとは僕にもかまってよ」


「わかったわよ、確かに妹にかまけてばかりだったわね。悪かったわ、ロバート」


「なら、公爵家に戻ったら。君の部屋に行かせて」


 私の前でイチャイチャしだす二人に苦笑いする。まあ、ロバートは姉が私の事ばかり構うから、それが不満だったらしい。まあ、仕方ないかしら。さり気なく目線を逸らして、窓の景色を眺めたのだった。


 ソアレ侯爵邸に着くと、私の隣にいたツェリが先に降りた。御者が扉を開けると、ツェリが手を差し出す。それに助けられながら馬車から降りた。


「それじゃ、姉様、ロバート先輩。また、明日ですね!」


「ええ、また明日ね。疲れたでしょう。今日はゆっくり休んでちょうだい」


「はい、夜ふかしをしないように気をつけます!」


「本当だね、僕も気をつけるよ」


「では、失礼します!」


 姉やロバートにお辞儀をすると、二人ともニッコリと笑いながら手を振ってくれた。それに応えてから、エントランスに行く。扉が閉められた。タラップが仕舞い込まれて、御者が台に戻る。馬車は再び、走り出す。それを見送って私は踵を返した。


 エントランスに入り、自室に向かう。その間、ツェリは黙って付いてくる。ちょっと、姉やレウィシアが羨ましくはあるか。私には未だに婚約者がいない。まあ、お祖父様が縁談が舞い込んでも握りつぶしているからだが。私は昔から異性が怖くはあった。何故かはわからない。前世で何かあったのかもとは思うが。それを考えながらも自室へと向かった。

 

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