第5話

 私は姉と校舎に入った。


 魔術科の一年生で確か、Aのクラスだったか。姉は教室の前まで送ってくれる。


「じゃあね、ルイゼ」


「ありがとうございました、姉様」


 私はお礼を述べた。姉はにっこりと笑い、手を軽く振る。そのまま、彼女は文官科の棟へ行った。深呼吸をして教室の引き戸を開ける。

 カラカラと音を立てながら、中に入った。すると、今日からクラスメートになった生徒達がこちらを一斉に見た。


「あ、あれが噂の……」


「ええ、戦闘狂で有名なソアレ侯爵令嬢ですわね」


「俺はあんな脳筋は嫌だな」


 ヒソヒソと私の悪口を言い出す。まあ、仕方ないか。脳筋令嬢と世間から、言われているのは知っていた。主にメイドのチェリー達経由だが。そっとため息をつきながら、自分の席を探した。


「……ここじゃないか?」


「あ、ありがとうございます。助かります」


 反射的にお礼を述べたが。ふと、相手を見たら。金のサラサラした髪に淡い水色の瞳。王太子のライカ殿下じゃないか!


「し、失礼しました。まさか、殿下の隣だったとは」


「ははっ、気にしなくていいよ。君が同じクラスになるとはね。これから、よろしく頼む」


「はい」 


「それはそうと、名を訊いてもいいかい?」


「……私はルイゼ・ソアレです。ライカ殿下」


 はっきりと言ったら、ライカ殿下はちょっとだけ目を開いた。


「へえ、君がソアレ侯爵令嬢か。成程」 


「あの、殿下?」


「ああ、すまない。あののね」


 そう言って、殿下は考え込んでしまう。私は何のことやらと思いながら、隣の席に座る。

 同時に教室の引き戸が開けられた。担任らしき男性教師が入ってくる。


「……はい、席について。今から各自に対する説明と自己紹介をするからね」


「「はい!」」


 生徒全員が大きな声で返事をした。男性教師は、教壇につくと説明を始める。


「私が今日から、君たちを受け持つ事になったサミュエル・アーバンだ。よろしくな。それと、本格的な授業は四日後だ。教科書やノートなどは既に学園から支給されているはずだが。皆に行き渡っているな?」


「「はい、行き渡っています!」」


「よろしい、では。次の項目に移るからな!」


 男性教師もとい、アーバン先生はテキパキと説明を進めていった。


 各自への説明が一通り、終わる。後はクラスメート達の自己紹介だけだ。

 出席番号順に先生が指名していく。皆、緊張しながらも済ませる。とうとう、私の番が近づいてきた。

 今は、私より三つくらい前の席に座る女子生徒の番になっている。


「……わたくしはイヴァンジェリン・ミラーと申します。これから、皆様と一年間同じクラスになりますね。よろしくお願いしますわ」


「よし、ミラー。座ってよろしい。次!」


「はい、私はセイラ・フローレンスと申します。よろしくお願いします!」


 名前順でなく、成績順に席が決められているのだが。私はある名前を聞いてギョッとした。ん?今、セイラって言わなかったか?

 二つくらい前の席に亜麻色の真っ直ぐな髪を腰まで伸ばした姿勢が綺麗な女子生徒が、立っている。


「……フローレンス、座ってよろしい。次!」


「はい!私は……」


 すぐ前の女子生徒が自己紹介を始めた。それが終わると、私の番だ。


「はい、私はルイゼ・ソアレと申します。よろしくお願いします!」


「ソアレ、座っていいぞ。次!」


 先生が次の生徒に呼びかけるが。私は二つ前にいるセイラが気に掛かって、仕方がない。じっと見ていたら、彼女が振り返る。

 セイラは淡い透明感のある琥珀色の瞳に陶器のように白い肌、鼻筋もスッとしていた。唇も紅をさしたわけでもないのに、薔薇色だ。まあ、要は超がつく美少女なわけで。しかも、亜麻色の髪は真っ直ぐでサラサラとしている。それをハーフアップにして、簡素に纏めていた。

 しばらく見つめ合ったが。セイラの方が先に逸らした。私もふいと視線を逸らす。けれど、心臓がバクバクとうるさい。胸を両手で押さえたのだった。

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