第31話

 誰もいないはずの第五機動部浅利隊の格納庫で二人の男女がテレビに映る決勝戦を見ていた。女はつなぎを着て帽子を被っており、男は陰険な顔立ちでスーツを着ている。


 女の方は男を汚らしいものを見るかのような目で見ているが、男はそれに気付かない。


「これで私もここから離れられる」

「そんなに嫌だったの?」

「当たり前だ。こんな所……紺野さんも修理だけじゃ嫌だから、乗ったんだろこの作戦に」


 不敵な笑みを浮かべる男だが、奈子からして見れば気持ち悪いだけだ。


 吐き気を我慢しながら奈子はテレビを見る。


「でも、まさか藤堂さんまでこの話に乗ってくるとは思わなかったよ」

「ええ。このままアナタは軍で出世して私は本物の整備長だ。でも、どうして今更軍なんか? あんな形だけの所」

「そうでも無いさ。何せあそこは権力がどんどん膨らんでいく所なんだから」


 軍。正式名称は国防省。


 軍と呼ばれる理由は、元は地球軍だったからである。しかし、その戦力はMCと戦闘をする度に壊滅寸前まで陥り、使えない部署、税金泥棒とまで言われるようになってしまった。そこでこれ以上軍の名が落ちぶれないように名前を変えて国防省となったのだ。


 しかし、これも縮小もしくは廃止の危機に晒されている。


 男が欲しているのはそれが出来ないほどの権力。軍は小さくなるに連れて軍事力ではなく、権力を手に入れたのだ。


☆☆☆☆☆☆


 ビームサーベルとショーテルがぶつかり合う度に現れるスパークと空を切る音。


 朝比はそれすらも聞こえなくなるくらい集中していた。


 あともう少しで倒せる。


 そんな気がしたからだ。


 白式はバク宙をしながら左腕にジョイントされたシールドを外して、頭部の牽制用バルカンを撃ち込み、蛇皇の動きを封じる。そのまま空いた左手でもう一本の腰部背面のビームサーベルを引き抜き、ブーメランを投げるようにして右手に持つビームサーベルもまとめて放つ。しかし、それらは予測されていたかのようにショーテルによって一振りで弾かれてしまった。


 だが、蛇皇は弾いたことによって胸部をさらけ出すように体勢を崩す。無防備になる蛇皇の頭部。そこへ白式の飛び蹴りが頭部に炸裂し、蛇皇の巨体が勢い良く海面に叩きつけられる。


「まだ、判定が降りてない!」


 そう。蛇皇の頭部は白式の飛び蹴りが炸裂しても破壊されていないのだ。そのためまだ撃墜判定が降りていない。


 このまま立ち上がられでもしたら、と思うと朝比の背中に悪寒のようなものが走った。


 朝比はそれを振り切るように白式の肩部に収納されているビームサーベルを引き抜く。


 そして、


『第一機動部藤堂隊 オメガ2・小野村沙穂、戦闘不能』


 とアナウンスが共通チャンネルで流れた。


「え? でも、まだ……」


 あまりにも突拍子もないことに朝比は驚く他なかった。


『お強いですね、アナタは。静香様のお婿様にふさわしいと思います』


 沙穂からの通信が入った。


「どういうことですか?」

『はい。私はただの時間稼ぎですので』


 時間稼ぎ。なら今のアナウンスはギブアップしたのではなく、役目を果たしたからなのか。


「ま、まさか‼」


 朝比は思い出す。


 開始後すぐに降ってきた火力という名の雨。


 朝比は自分の顔が青ざめていくのを実感し、直ぐさま操縦桿を操作する。それに応える白式は大急ぎで海に沈みかけていたシールドとビームサーベルを出力するための二本の柄を拾い上げマウントさせる。そして、その場から立ち去ろうとバーニアの出力を上げようとした瞬間、降ってきた。


 先程、脳裏に巡った火力の雨が。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る