第21話
第五機動部浅利隊は見事に第二試合を勝ち抜き、三日後に控える第三試合に向けてブリーフィングを行っていた。
第三試合の舞台は海上ではなく、陸地が選ばれた。つまり第三試合は本土で行われると東雲朝比は、いや、南雲健とアオノ・リンは思っていた。しかし、その思いは隊長の浅利瑪瑙によって砕かれた。
「本土になんていかねえぞ。学園島には陸戦用に設けられた演習場がある。私らは基本的に海上で戦うことが多いが、MCの侵攻やらテロリストの排除のために駆り出されることがある。だから、学園島には模擬戦闘用のフィールドがたくさんあんだよ」
瑪瑙は教えるのを忘れてたと言わんばかりに説明する。
朝比は本土に戻るとなれば普通科の友達に会えると思ったのだろうか、少し寂しそうな表情を浮かべていた。
「陸戦かぁ。なら白式の装備を別の物にしてもいいかもね。丁度師匠から連絡があって『良いデータが取れてるのにウィングパックばっかりだから違う武装もお願い』だってさ」
第五機動部浅利隊の整備長である紺野奈子が顎に手を当てて考える。
「どうする? 相手は確か第八機動部獅童隊だよね。接近戦を得意としてる部隊で武装が基本実体剣だったり、ナイフだったりするから、通称『侍隊』なんて呼ばれてるところだし。白式の武装も接近戦専用の物に換装させとく?」
「どうだろうな。正直こっちの戦法と向こうの戦法が似てるからな。違いと言えば朝比とリンがオールラウンダーだってことくらいか」
「んー。それはどうかな瑪瑙たん。朝比くんも白式の超高機動戦闘能力を目いっぱい引き出して接近戦に持ち込むことが多いから、オールラウンダーはオールラウンダーだけど接近戦よりかな」
「こ、細かいな。なら朝比も今回はアタッカーとして前衛に出てもらおうか」
「それも良いと思うけど、あえて遠距離用の武装で後方支援って手もあるけど」
「それは止めといた方が良いかも」
幼女のような女子高校生――花上きよこが頬杖をつきながら言う。
「侍隊に遠距離で挑んでも隠密機構人『
「ああ、僕がいつもやってるミサイルくぐりみたいな感じか」
「そうよ。一様言っておくけど、そのミサイルくぐりも異常だからね」
きよこは吐き捨てるように言うとそっぽ向き始める。
健はそんな二人のやり取りにやれやれと言った面持ちで手を挙げる。
「今話に出てきた『
奈子が無い胸を叩き、我に任せよ、と言いたげな表情を浮かべて答える。
「まず隠密機構人『漏忍』から説明しよう」
奈子が言った途端、ホワイトボードに似た大型ディスプレイに漏忍の姿が映し出される。
「隠密機構人『漏忍』はその名の通り昔の忍者をイメージして師匠が設計して私が組み上げた機体なの。武装はグレイブ改に装備されている実体剣を忍者刀にした物と
リンはポカーンとした表情で話しを聞く。
「接近戦専用機構人『戦極』もその名の通り武士をイメージして師匠が設計して私が組み上げた機体なの」
健は眉をひそめる。
「ちょっと待った。ここの機構人は紺野先輩の師匠が設計して先輩が組み立ててンのか?」
「んな訳ないじゃん。グレイブは地球軍の量産機だよ。そのデータ収集と改良のために配備されているの。あと月の機構人『
健は納得したのか両腕を組み聞こえるか聞こえないかの声で「なるほど」と呟く。
さて、と奈子が仕切り直しとばかりに手を叩き機体の説明に戻る。
「戦極についてだったね。武装は見ての通り両腰に刀型の実体剣が一本ずつ。背部にも同じものがメインバーニアを挟んで一本ずつ。さらに左腕の前腕部には小型の盾兼実体刃を装備してあるの。だから抜刀していなくても実体刃を展開していれば十分戦えるって訳。さらにどの実体剣、刃も刃先がチェーンソー状になってるから切断能力がずば抜けてるよ。あとは機動性だけど各部にスラスターがあるからそれで高機動戦闘を可能にしてる」
「見るからに俺好みの機体だなぁ」
「でも健くんの機体は……ってまだ渡せないみたいだからグレイブ改で我慢して」
健は奈子の言葉に訝し気な視線を送るが、奈子はあえて気付かない振りをして瑪瑙に視線を向ける。
瑪瑙は溜息をついてから口を開ける。
「ちなみに隊長機は『戦極・頭』」
「戦極かしら?」
「ちゃちゃを入れるな。締めるぞ」
瑪瑙が健の冗談を一蹴して続ける。
「主な特徴は戦極よりも甲冑武者に似てるってところだな。頭部が兜、両肩部に甲冑特有の蛇腹装甲。両脚部も同じように装甲が増設されている。武装も基本的に戦極の倍近くある。両腰に打刀と小太刀、両腕の前腕部には小型の盾兼実体刃が装備されている。背面には薙刀も背負っているが、基本的に槍投げの要領でしか使わない。そこまで武器を積んでいるのに漏忍並みの機動性を有している。無闇に近づくと一瞬でばらばらにされるぞ」
「な、なるほど。じゃあ、隊長機の相手は健くんかきよこちゃんがいいんじゃない?」
朝比が言うと瑪瑙は首を横に振る。
「決めた。隊長機『戦極・頭』は白式と切斬が相手をしろ。他は私と健とリンで押さえる。いくら阿修羅でも二対一に持ち込めば勝機はあるだろ。やばくなったら私も援護に行く」
「あの……阿修羅って?」
朝比が問うと瑪瑙は嫌な顔をする。それを察してか、はたまた空気を読まずにか、奈子が代わりに答える。
「第八機動部獅童隊の隊長の獅童阿修羅くん。瑪瑙たんの熱狂的なファンだよ。そりゃあ凄いよ。ほとんど毎日花束とかお弁当持ってきてくれるみたいだし。誕生日の時なんてホールケーキを作ってラブレターまで渡してたね。まあ、いつもフラれてるけど。最近、瑪瑙たんにも心境の変化が出てきたみたで――」
「それ以上言ったら殺すぞ!」
「うわー超怖いんだけど」
奈子はへらへらしながら両手を挙げる。
瑪瑙は瑪瑙で恥ずかしくなってしまい俯いてしまう。
朝比達は普段見せない瑪瑙の乙女チックな姿に驚愕する他なかった。これは試合当日嵐が巻き起こるに違いない。
「お前ら全員砂浜ランニング五十週じゃ、コラァァァ!」
瑪瑙が激怒した。
予期せぬ言動に朝比達はげんなりする他なかった。
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