第20話
第二十話
第一試合を難なく突破した東雲朝比達・第五機動部浅利隊は、続く第二試合で苦戦を強いられていた。
朝比と南雲健、それに加えてアオノ・リンも少し焦っていた。
「やっぱり、僕達だけじゃ……」
『おいおい。隊長がそれ言うか?』
『朝比、落ち着いて』
そう。今の会話の通り隊長は東雲朝比だ。
第二試合では新人の三人だけで挑んでいるのだ。対するは狭間学園の中でも上位に位置づけられる第六機動部。
白式と二機のグレイブ改は第六機動部に追い詰められてしまい、密集陣形をとっている。
『でも、流石にキツイな。向こうは七機でこっちは三機』
「うん。経験も向こうの方が上だし」
『まあでも、開始十分経ったよな?』
健が不敵な笑みを浮かべながら問う。
「うん。ノルマは達成したから、もう本気で闘っていいよ」
ノルマ。それは本来の第五機動部浅利隊の隊長である浅利瑪瑙から与えられた彼等への課題だ。
『本気で優勝狙うならお前等だけで勝ってこい‼』
ということで朝比と健は冗談かと思っていたが、本気だったため驚いていた。リンはいつも通りの無表情で関心が無い様子だった。
瑪瑙は加えて開始十分間は絶対に攻撃するな、という枷を与えた。
朝比達は瑪瑙から与えられた課題を達成するために防戦一方な戦闘を行っていた。男子二人は鬼畜以外に思いつく言葉が無かった。
しかし、その枷はたった今外された。
『ニッシッシ。反撃開始だ!』
健は歓喜の声を張り上げる。リンもやられっぱなしで相当フラストレーションが溜まっていたらしく『早く行こ?』と凄味を増した声で言った。
そして、朝比が出した命令は至極簡単なものだった。
「散開して各個に応戦っ! そんじゃまあ、いっちょド派手に行きますか‼」
『おう!』
三人は気合い充分な声を上げて各々の敵を倒しに機体を駆る。
白式は飛行形態へと変形して天空へと舞い上がる。それに気付いた二機の第六機動部の機構人がその手に持つマシンガンから火花を散らす。それらは正確に白式を撃ち落とすため迫ってくる。しかし、狙われているはずの白式は隊長機の元へと突っ切っていく。
余りの速さに模擬弾が直撃する前にその場からいなくなっていた。
二機が呆気に取られ、立ち尽くした瞬間、足元の海面から模擬弾とミサイルの嵐が吹き荒れる。水柱が立つ中、爆発音と轟音が静かな海に響いた。
しかし、撃墜判定はまだ降りていない。反撃しようと二機とも海面に銃口を突き付けたが、その直後にマシンガンが爆散する。しかも二機ともほとんど同時に。その衝撃で仰け反った二機に追い打ちする形で大きな水柱が出現する。その中から現れたのは、健の灰色のグレイブ改だ。
『うおおおおおおおおおっ‼』
健はMCのように吠えながら、グレイブ改が構える二本の模擬戦用の実体剣を振り降ろし、容赦なく二機の四肢を斬り飛ばす。そのパーツ達は、グレイブ改が作り出した大きな水柱で舞い上がった海水に紛れるように海に落下した。
健は二機の撃墜判定を確認してからグレイブ改を索敵兼撃破のため駆る。
☆☆☆☆☆☆
リンは向かってくるミサイルを全て撃ち落としながら欠伸をしていた。
先程までわざと避けたり、爆風に巻き込まれたふりをしていたせいで、妙に疲れている。
後方には四機の機構人。
「そろそろ、倒す」
静かにそう言うと海中に向けていくつもの魚雷を撃ち込む。加えて、それらを命中させるためマシンガンで敵機の脚を重点的に撃ち、転げさせる。次に聴こえてくるのは爆発音とその衝撃で荒れる波の音だけだ。
敵一機の撃墜判定を確認するとリンは溜息をつく。すると個別チャンネルで通信が入ってきた。
相手はまさかの第六機動部のエースからだった。
『この俺様に見つかったからには撃墜してやるー!』
エースは甲高い声で大口を叩く。しかし、相手が悪かった。
リンにとってエースの有無は関係ない。加えて、エース機の直ぐ後ろには二機の量産機がいる。これでよく威張れたものだ。
リンは鬱陶しくなり面倒臭そうに答える。
「うるさい。頭に響く」
そう言って予め背部に展開していたミサイルポッドから無数のミサイルを発射する。それらはエースたちが撃ち落とすにはあまりにも多い。かと言って逃げるにもその隙間すら無い。さらにマシンガンで正確にエースたちの動きを封じる。こうして逃げ場を失ったエースと他の二機には呆気なく撃墜判定が下された。
リンは無表情のまま次の獲物を探しに行く。
☆☆☆☆☆☆
撃墜判定が続々と出ている中、自分だけ何もしていない。
朝比は少し焦っていた。
「命令しといてこれは無いよ。早く隊長機を見付けないと」
センサーをチャックしながら辺りを見回す。
しかし、何もいない。
「さっきの攻防でも見なかったし、もしかしたら海中にでもいるのかなぁ」
朝比が言った通り、防戦一方を装っていた時も隊長機を見かけなかった。機体の姿を隠す光学迷彩なら朝比も知っているが、それを相手が使っているとは考えにくい。どうしたものかと白式が空中をゆらゆらと飛んでいた時、事が起きた。
ピーピーピー! とセンサーに反応があった。同時に複数のミサイルが海面から打ち上がり向かってくる。
白式はそれらから逃げようとするがミサイルは追ってくる。
追尾式のものだ。
朝比は迫りくるミサイルに向けて脚部に搭載されているフレアを放出する。フレアに撹乱された追尾式ミサイルは白式を捕えることができず、虚しく爆散する。直後、ミサイルが来た方向を計算、予測して機首の二門あるキャノンバルカンを撃ち放つ。しかし、手応えがなく外したと分かる。
隊長機を倒さなければ試合が終わらない。判定にもなるがそれじゃあ勝ったとは言い切れない。
意を決した朝比は気合を入れて白式を機構人形態に変形させる。
「水中戦か。やってやる!」
白式は海へと墜落するように飛び込む。
水中戦はシミュレーターで何度か試したことがある。しかし、それでも少し不安が残る。
飛び込んでから数秒も経たないうちに危険を知らせる警報が鳴った。
朝比の操縦桿を握る手に力が入る。
「ミサイル……じゃない。突っ込んでくる」
第六機動部の隊長機は本来水中戦に特化した機体なのだ。だからか水中戦専用機特有の独特なずんぐりした姿をしている。両腕は通常のものよりも三倍近く長い。それなのに両脚は通常の半分の長さしかないが、太さはかなりある。まるで豚足だ。足裏にはスクリューを搭載しているため水中を自由に動くことができる。長い両腕には、それに見合った長い爪が前腕部側面から展開されており、掌に当たる部分には銃口がついている。全体像は大きな球体に長い腕と短い脚が生えたようなものだ。
朝比は冷静に状況把握する。その目には穏やかな色なんて一切ない。表情もリンと同じく無表情になる。
もう手加減しなくていい。気持ちの差だろうか、モニター越しに映る隊長機の姿が一瞬だけMCに見えた。
次の瞬間、白式は腰部背面のビームサーベルを引き抜き擦れ違いざまに隊長機の長い右腕を溶断する。
白式のビームサーベルは電離層を作ることによって水中でも十分に使えるらしい。らしいと言うのは、そもそも朝比自身がそれを理解していないからだ。
諦めが悪いのか、第六機動部の隊長機はまた迂回して突っ込んでくる。そして、またしても朝比は隊長機をMCと錯覚してしまった。だが、今度の擦れ違いざまに確実に頭部を溶断した。それを感知したのかブーっと終わりを告げるサイレンが鳴った。
朝比は損傷した相手の機構人を抱えながら海面に浮上する。どうやら、先程の攻防で推力システムが壊れてしまったらしい。
『ごめんね。助かったよ』
と優しい女性の声が個別チャンネルを通じて耳に入った。未だに勝ったことが信じられない朝比はその声のお蔭で実感した。
「そっか。勝ったのか」
勝った喜びもあるが、同時に少し疑問が浮かび上がる。どうして隊長機がMCに見えたのだろうか。深く考えようとしたときに歓喜の拍手が白式を包み込んだ。
☆☆☆☆☆☆
朝比達が苦戦を装って戦闘を繰り広げているなか、理事長室では三人の女子生徒が大きな机に資料を並べて話し合っていた。
「裏切り者はおそらく……」
「軍からこっちに流された教官だな。案外、直ぐに分かるもんだな」
瑪瑙と静香が結論付けたところで奈子が口を開ける。
「そんで私もその一員だったりするんだよねえ」
「ええ。フリでも辛いでしょうが、我慢して下さい」
「ううん。こんなので役に立つならいくらでもするよ、シズちゃん」
「なっちゃん……」
静香は嬉しさと優しさの余り目に涙を浮かべる。
「ったく、すぐ泣く癖止めろ。慰めるの大変なんだぞ」
「瑪瑙ちゃん……大好き!」
気恥ずかしくなった瑪瑙に静香の抱き付きが炸裂する。しかも、二つの大きなエベレストのせいで呼吸が出来ない。それなのにいつも揉みし抱く感覚が蘇り、いつしか瑪瑙の顔はニヤけていた。
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