第11話
朝比達は隊長の命令によりラボに向かっていた。もっとも命令した瑪瑙本人と麻衣は別の用事があるため後から来ることになっている。
ラボに着くためには市街地を通らなくてはならない。そのため今は市街地にある商店街の中を歩いている。
「ホントにここ島の上なの?」
「同じく」
「アンタ等ってホントに狭間学園の生徒なの?」
朝比と健の問いにきよこは、呆れたような口調で言う。
「この人工島『学園島』の大半はパイロット科と整備科のための施設で出来ているけど、それだけじゃ生徒達の精神状態に影響が出るかもってことで、こういう商店街やショッピングモール、そして生徒の親族の家が建てられているの。要するにここは学びの園であって、生徒達をケアするための場所でもあるってこと」
「よく知ってるな、おチビちゃん。でもさ、こっちの生徒って全寮制じゃなかったっけ?」
健の問いにきよこは溜息を着いてから「子どもだけじゃ心配だからでしょ」と吐き捨てるように答える。
「なるほど。だからおチビちゃんはお母さんと一緒に来てたのか」
「チビって言うな! デカ
子どもだな。
きよこ以外の全員がそう思った。
しかし、なぜだろう。朝比達に向けられる視線が痛い。特に向かいから来る女子生徒達の視線が。その先には朝比もしくは健がいる。ついで、と言うことでリンときよこにも視線が向けられる。
朝比は男とは思えないほどの幼く可愛らしい容姿。
健は整った顔立ちに高身長の所謂いわゆるイケメンだ。加えて目印にもなる銀髪。
リンは無表情ではあるが綺麗な黒髪と顔立ちをした美女。
この三人の中で朝比の次に目立つ小学生、いや、高校一年生の花上きよこ。容姿、体型その全てが高学年の小学生と何ら変わりがない。
こんな混沌とした集団を平然と見ていられる者はそういないだろう。と、思いきや女生徒が健に近寄って来る。
「あの、よろしかったらお名前教えてくれませんか? 私、一年B組の紺野奈子って言います」
ずいぶんと積極的だな、と思いながら朝比はその女の子を見つめる。
「俺は南雲健。B組ってことは俺と同じクラスだな。今後ともよろしく」
「は、はい」
そう言って走り去ってしまった。
こんな調子で朝比は五回、健は七回も呼び止められてしまいラボに着く頃にはおやつの時間になっていた。
健はお腹を押さえながら歩くきよこに「飴いるか? 腹は膨れないけど」と優しげな笑みを浮かべて飴を差し出した。
「い、良いの?」
「ああ、良いぜ。その代わりおチビちゃんて呼んでいい?」
ムッと頬を膨らませるきよこだが、飴という大好物の誘惑に負けてしまい渋々ながら了承した。
「美味しいか?」
「うん。ありがとう」
小学生だ、と言わんばかりに視線を朝比と健が向ける。
リンは真っ直ぐ目の前にある大きな格納庫の鉄の扉を見ていた。
朝比が扉の前に立つとタイミングよく扉が開かれた。
次の瞬間、ゴンッ! と鈍い音が鳴り、朝比は反対側に倒れてしまった。偶然、朝比側から引くタイプの扉だったため、朝比の額に綺麗に命中したのだ。
「グヒャッ、だって」
「朝比、ふっふふ、大、ふふ、丈夫?」
あの無表情で有名なリンが笑いをこらえている。しかし、その仕草がまた可愛い。
「あん?」
威圧感のある野太い声が朝比達の耳に入った。
朝比達は背筋に悪寒のようなものを感じて額から冷や汗が滲み出てくる。例外としてリンは未だに朝比が扉に額をぶつけたことを笑うのを我慢している。
「なんでお前等こんなに遅いんだ?」
「えっと……」
朝比は口をもごもごさせながら目を泳がせる。朝比も朝比で色々と可愛い。女である瑪瑙ときよこはなぜか負けた気がした。
「朝比くんと健くんが逆ナンされてました。そしたら二人とも鼻の下を伸ばして元気にその対応をしていました」
「えっ⁉ ちょっと何言ってんのおチビちゃん!」
「ほほう。南雲それはホントか?」
健の肩が軽く震える。列記とした殺気が健を襲う。
だからか健は慌てた様子で手を挙げる。それはもうとても綺麗にまっすぐ挙げられている。
「朝比も共犯者です! 話しなら朝比に聞いて下さい‼」
「そ、そんな! 酷いよ健くん‼」
「言い逃れはさせないぞ」
瑪瑙の恐ろしい言葉に朝比は半泣きの状態になってしまった。
やらかした、と言わんばかりの視線が瑪瑙に向けられる。
「あ、あたしか⁉」
朝比以外の全員が瑪瑙から視線を外して別々の方向を見る。まるで関係ありませんと言っているようだった。
朝比の半泣き状態が予想以上の効果を発揮したらしい。
「わ、私が悪かったから……泣くな。泣かないでくれ……」
「ひゃい」
「それに私の方が可愛いしカッコイイ」
「「「気にしてたのそっち⁉」」」
朝比と健ときよこが同時に驚きの声を発した。
そして、リンが耐え切れなくなった笑いを爆発させた。
その声が格納庫内にも聞こえたらしく、中にいた麻衣と整備長と書かれた腕章を付けた女子生徒が出てくる。
「どうしたの?」
「あ、君は……」
「どぉもぉ紺野奈子でぇす。またまたよろしく!」
収拾がつかなくなったので取り敢えず全員格納庫に入った。そこにあったのは朝比の白い機構人『
朝比の涙目は一気に歓喜に満ち溢れキラキラと輝いたダイヤモンドに姿を変えた。
「やっぱり綺麗だね」
「うん。キレイ」
朝比の隣に並び立つリンも言った。
「まさか先輩だったとは……」
「ごめんごめん。つい、いつもの癖で」
(いつもやってるんだ)
と健は思った。
「改めて、第五機動部浅利隊整備長の紺野奈子です。さっきは一年って言ったけど実は二年生です。ヨロシク」
緑色の髪が特徴的で肩までしか伸びていないのに、それすらも後ろで結んでしまっているため、頭の丸みが直ぐに分かってしまう。その頭には逆ナンした時は被っていなかったキャップ付きの帽子を被っていて、整備士特有のつなぎを着ている。それなのにどこか可愛いらしい雰囲気を醸し出している。
「これからお世話になります」
「うん。ちゃんと私の手元まで持って帰って来てね」
そう言ってから奈子は朝比達の元に行った。
朝比のはしゃぐ姿と白式の説明をする奈子のハイテンションぶりに格納庫内は、まるで大きなスピーカーで爆音を鳴らしたかのようになってしまった。結局、また収拾がつかなくなってしまったということだ。
それ等を見ていた瑪瑙は、溜息を付きながら、やれやれと怒りを通り越して呆れて頭を掻くのであった。
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