3)結婚したい? したくない?
沙耶加、ソファにもたれて、何度も溜息をつく。テレビはついているが、見ていない。
フクロウ:どーも、北相馬家のペット、フクくんです。今回はナレーターとして参加しています。どうやらお部屋には、沙耶加さんしかいないようです。有給をとってるようには見えません。どーしたどーした、沙耶加さん?
沙耶加:(溜息)ビール飲もっかなー…(冷蔵庫を開けてビールを取り出し、プシュッとして、グビグビ飲む)プハー…(一瞬の解放感。やがて溜息が出る)…こないだもそうだった。社内の飲み会で、新入社員といい雰囲気になって、ちょっと恋人気分で付き合って、ウキウキになった途端「元カノ復活!」(大きな溜息)。あたしも悪かった~(ソファに違う姿勢でもたれる)! 酔っぱらってラインでカレに絡んじまって収拾つかなくなってブロックされるなんて…。(両手で頭をポカポカする)ああもう! あたしのばかばか! 死んじまえ!
あずみ:ただいまー。あれ? ねーちゃん、またズル休み?
沙耶加:(起きて)あたしはズルくない! ズルいのはカレよ!
あずみ:…なんのこと? 話が見えないんだけど。
沙耶加、黙ってビールを飲む。
あずみ:まーた酒ぇ? まだ明るいよ? (ピンときて)…あー、また振られたんだー(ニヤニヤ)。
沙耶加:ちょっとやめて! あたしが振ったんだから!
あずみ:あっれ~? カレに振る要素あった~? いい加減、ラインで絡み酒やめなさいよ~。
沙耶加:るっさいなぁ。絡んでないもん!
あずみ:じゃあ焼け酒ぇ? ここは呑み屋じゃありません。
沙耶加:(溜息)…正直に告白する、今度はマジだった!
あずみ:今度って、前回も前々回も「マジ恋」だって言わなかった?
沙耶加:(フッ)昔のことは忘れたよ…。(髪をかき上げる仕草)あたしは、今を生きる女だからさ…。
中学生の従妹・美穂が来る。
美穂:おねえちゃんズ、こんちゃー。お邪魔しまーす。
あずみ:あら美穂ちゃん、こんちは。(制服を見て)家に帰ってないの?
美穂:お母さん、夜勤だって。夕飯一緒に食べていい?
あずみ:もちろん、いいわよ~。誰が作るか決まってないけど。
沙耶加:(挙手して)あたし作る―! ブタの生姜焼き!
美穂:(残念そうに)あ、ああ…。
あずみ:え~またブタの生姜焼きぃ? ねーちゃん、味付け濃いからなあ。
沙耶加:(ビール飲んで)酒の肴にちょうどいいんじゃ。
美穂のスマホが鳴って、画面を見る。ちょっと離れて座って返信する。
あずみ:美穂ちゃん、誰なの?
美穂:ん? 彼氏ー。
沙耶加:なぬ? 彼氏ですと??(美穂にロックオンしたままビールぐびぐび)
美穂:向こうから「付き合って」って言われて、ライン交換したー。
あずみ:(沙耶加に肘鉄してニヤつく)わたし、夕飯の支度するねー。
沙耶加:(近づいて)ねね、その彼氏イケメン?
美穂:んー、そうでもない。フツメン。
沙耶加:金持ちかな?
美穂:さあ、どうかなあ?
あずみ、準備しながら聞き耳を立てる。塔子、帰ってきて、あずみにシーッされる。塔子も一緒に聞き耳を立てる。
沙耶加:…美穂ちゃんは、いつか結婚したいと思う?
美穂:(ドライに)全然。思わない。
沙耶加:えっえっ、なんで?
美穂:なんでって…うちの親見てるから。別に仲良くないし、顔合わせても無言だし。
沙耶加:あそっか、叔母さんち、きっと倦怠期なんだよ。
美穂:ケンタイキって離婚寸前のこと? お母さん夜勤のパート見つけて、いま頑張ってるから。
沙耶加:違う違う、叔母さんも叔父さんと恋愛して、結婚して、それで美穂ちゃんが生まれて…。
美穂:お母さん、確かデキ婚だよ? わたし産んで、お父さんがしょうがなく認知したの。
沙耶加:(衝撃)そうなの?! 知らなかった…。
美穂:(画面見たままドライに)お父さん、たぶん浮気してる。
沙耶加:ええっ?!
美穂:たぶんだけどね。お母さんは「女の直感」って言ってる。わたしも同感。
沙耶加:女ってすげーなあ…直感でわかるんか…。
美穂、スマホ画面を見て舌打ち。
沙耶加:どしたの?
美穂:おかしくね? ラインの反応(沙耶加に画面見せる)。こいつ、ウザってー。ブロックしよ。
沙耶加:もう?? はっや!
美穂:もう少し気が利いたこと返してくれや。つまんねー。
沙耶加:美穂ちゃん、男の子見切るの、早くない?
美穂:わたし早いよ? チンタラしてらんねっつの、ったく。
沙耶加:もう一度聞くね、結婚したいって思ったことない?
美穂:ない。結婚願望はまったくない。大学出て就職して、経済的に早く自立したい。でも、子どもはほしい。
沙耶加:ほしいんだー! あたしほしくないや。
美穂:子育てって面白いらしいよ? 自分をもう一度育てる感じで。
沙耶加:えーだって、出産するのすっげー痛そうじゃん。身体のライン崩れるし…。
美穂:大丈夫、いまは無痛分娩てのがあるから。
沙耶加:へー、詳しいんだー。
美穂:でも子どもがまたひとり増えたって。お母さんが愚痴ってた。ほかの家族もお父さんが子どもになるの?
沙耶加:なるなる! うちのとーちゃんもそうだった! 4人目の子どもだったもん!
美穂:やっぱりねー。
美穂のスマホが鳴り、電話に出る。
美穂:お母さん? いま北相馬のおねえちゃんズにいるの! 早く帰ってこられそうだって!
沙耶加:じゃ叔母さんも一緒に、女5人で夕食だね!
美穂:うん!
塔子:(お皿を持ってきて)じゃじゃーん、今夜はごちそうよ!
あずみ:飲も飲も!
沙耶加:くうっ、酒が進むぜ!
フクロウ:結婚したい、したくない、子どもがほしい、ほしくない。女の人生さまざまあって、カラフルです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます