奇行その3

アカネは、巨大な交差点の真ん中に立っていた。四方に広がる横断歩道は、まるで絵画の枠を作っているようで、行き交う人々は滔々と都会の日常を描画した。中央に直立している、妖怪然とした虚ろな女子高生を除いて。

 石英のように透き通った肌も手伝って、その昔交差点で事故に遭い、命を落とした地縛霊にしか見えない。彼女を原点とした軸上を、さながら点Pのように動く僕。

「もう信号変わるぞ、行こう」

「そうね、ありがとう」

 点Qは、僕に一瞥もくれず動き出した。二点はそろって学校へ向かった。


 僕には最近、考えていることがある。アカネの心が、何らかの原因でひどく傷ついて、この世から去ろうなどと思い詰めてしまったら、どうなるだろう。

 自意識のかけらも備わっていない彼女の辞書に、傷つくなんて言葉はないかもしれない。ただ、彼女に備わっていないのはなにも自意識だけじゃなく、社会規範をはかるものさしや、してはいけないことを踏みとどまるブレーキまで、キャベツ畑に置いてきてしまったようである。

 万が一、彼女が人間を降りようとした場合、僕は全力で止める所存だ。法を犯そうとした場合も、極力止める。

 僕がアカネの、良識になる。そう決意した矢先、彼女は生まれたばかりのカマキリを口いっぱいに頬張っていた。

 さしあたって心配する必要はなさそうだと思い、大きく反って伸びをする。淡いピンクの花びらが、暖かい風に乗って鼻先をかすめた。

 いつの間にか桜が咲いていて、イロモノドリンクは自販機から姿を消した。

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