アカネという少女

僕とアカネは、断片的な会話を交わすうち、連れ立って下校する仲にまでなっていた。

 彼女はあまり、自分の素性について話さなかったが、いくつかわかったことがある。まず、かなり綺麗な顔をしている。いや、これは話さなくとも知っていたことだけど。ただ、ティーン雑誌に載るようなキュートネスを持っているかというと、そうでもなくて、彼女を初めて見たとき思ったのは、遺影として額縁へ入るのが似合いそうな顔だということだった。

 なにも自分の死体性愛を白状しているわけではない。彼女の、酸いも悔いも憂いも経験したような、達観した顔がそう思わせるのだ。あるいは、ひたすらに無垢なだけかもしれない。

 そんな死人の風合いを持った彼女は、やはり肌が白いのだった。反対に、瞳や髪は光を受け付けない黒さで、美術で習った”コントラスト”を思い出した。しかし、性質を異にする両の雰囲気は反発することなく、かといって混ざり合うこともなく、そこに存在していた。狂気と理性を両取りしている彼女らしいなと思った。


 ミチル曰はく、人気がないわけではないらしい。ただ、入学初日にカマキリを食べながら登校していたのが余りにもショッキングで、一定の距離を取られているのが現状だそうだ。

 普通にしていれば、美人の類に入るのは明白である。実際、僕と歩いているときも多くの人間がこっちを見てくる。少し居心地が悪いので、それからは一メートルほど離れて歩いている。


 アカネには絶対のルールがある。三日間ずっと気になっていたことは必ず実行し、そして、一度そのプロセスを辿って実行されたものは、彼女にとって”当たり前の行動”になるということだ。前者については、彼女が明言していたから知っていたのだが、後者に気づいたのは、並んで下校するようになって数日経った頃だった。

 彼女は、オブジェの近くを通るたび上に登ろうとし、バッグの中には常に大量のイロモノドリンクが入っていた。しかし、これに関して言及すると彼女は決まって、何を言っているのかしらという顔をする。なぜなら、彼女にとっては朝起きて顔を洗うのと同じくらい、当たり前の行動になっているからである。顔を洗わない不潔諸氏には、わかりにくい例えだろうが飲み込んでくれ。

 春になって、目に入るカマキリをすべて食べようとするアカネを想像すると、胃袋がきゅっと閉まる。

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