奇行その2
第二の奇行は、規模の小さいものだった。購買の自動販売機でイロモノドリンクを買っていたのだ。
イロモノドリンクとは、おそらく供給する側も、定番商品として愛され続けるなどとはつゆほども思っていないような、味よりも販売期間の儚さが売りのドリンクのことだ。
僕は、友達になるため踏まなければならないステップは二段階あると思っている。まず、一度話しかけること。そして、もう一度話しかけることだ。
このメソッドが通じなかった相手はいない。メッセージアプリの相互登録にまでかぎつけた友達は現段階で三人いるが、そのうちの二人、タケとミチルに通じたのだから立証されたと言えるだろう。かなり論理的だ。もちろん、残りの一人は母親である。先ほどは便宜的に友達と言ってしまったが、立派に僕のことを扶養している母親だ。名前はモモエ。
そういうわけで、彼女にもこのメソッドを実践した。そういえば、彼女と同じクラスであるミチルによると、名前をアカネというらしい。出席番号四番、江中 茜。
「それ、おいしいの?」
「想定していたより、美味しくないわ」
「ふん、そうだろうね」
僕は思わず鼻を鳴らしてしまった。だって、明らかに僕のほうが消費者として優れているだろう。あんなものに金を払う彼女、改めアカネは気が触れている。
「こういうジュースってね、普通の飲み物より、情報量が多いの」
そう言うと、ペットボトルの裏を見せてきた。言われてみれば、成分表のサイズが格段に大きい。聞いたこともないような物質がたくさん入っているが、文系の僕には皆目わからない。モモエが言うには、そのような物質の大半は人間以外にとって猛毒らしい。人間には微毒だそうだ。
「君は、飲み物を情報量で見てるの?」
アカネは、目頭をこすりかけてから、置き場所を探すように手を右往左往させた。
「三日間ずっと、購買へ来るたび目に入ってきてたの。このはげしいパッケージが」
どうやらアカネは、馬鹿げたイロモノドリンクのことを三日間も気にしていたらしい。
一見野性的にも見えるアカネの思考回路だが、なぜだか筋が通っているような、正体不明の説得力があるように思えて、自然と心惹かれた。モモエが言うには、これを俗に恋と呼ぶらしい。
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