第5話 帝前会議
帝国暦142年4月18日 リバティア神聖帝国 帝都レベリオン
リバティア大陸の殆どを領土とするリバティア神聖帝国は、異世界より召喚した者たちの持っていた知識と、魔人族から奪った技術をベースに文明を再構築し、3千万もの人口を支える非常に発展した暮らしを達成していた。
主要街道には石畳が敷かれ、多数の馬車が行き交う。水道も普及しており、多くの人はこの発展を『奇跡』と呼んでいた。特に帝都レベリオンの発展は凄まじく、血管の様に張り巡らされた水道と石畳敷きの道路は、50万もの人口を養うのに十分なインフラとして機能していた。
そしてこの日、帝都レベリオンの中心地にある宮殿の会議室では、皇帝リバティア7世が軍人や閣僚を集めて帝前会議を開いていた。
「陛下、
円卓の場にて宰相レーディアはそう言い、皇帝は不満げに顔をしかめる。同様に他の閣僚も揃って同様の表情を浮かべており、生意気にも反撃をしてきた『魔法を知らぬ者ども』にいい様にジュラシアを占領されているという事実は、帝国上層部の多くを不満にさせるのに十分過ぎた。
「しかも問題は、忌々しき敗北者たる亜人どもを支援し、愚かなる賤民に政をさせている事です。このままでは我らの面目は丸つぶれとなってしまいます。陛下は此度の国難に対し、如何様にして対応なさるおつもりでしょうか」
すでに世界元老院では、帝国軍の規模を増強してジュラシア地方を奪還すべきとの意見でまとまっている。10か月前から行われている軍事行動では、帝国軍は1万程度の兵力を出して攻撃を仕掛けていたが、成果はまるで見られなかった。そのため今度は10万規模の兵力を奪還するべきという意見が出されていた。
侵攻作戦前の帝国軍の地上兵力は、歩兵が10万に竜騎兵が3万、大弓兵が1万の計14万人であり、従軍魔導師に後方支援部隊も含めれば16万人に達する。先の侵攻作戦で動員された兵力は8万であり、うち7万を喪失。これに驚愕した帝国政府は、元老院での決定の下に徴兵と予備役招集を行い、3か月以内に6万人をかき集めていた。
その後も徴兵で1か月に1万人のペースで増強を続けていたが、ジュラシア地方での戦闘が始まって8か月以上が経過し、計4万人が戦死。しばらくは大規模攻勢に出れない状況が続いていたのである。
「流石にこのままでは我が国の沽券に関わる。徴兵の強化のみならず、近衛軍も投じ、確実に勝利を求めるとしよう…そして足りない分は、大貴族より私兵を求める事としよう…」
リバティア7世の言葉に、多くの軍人が色めき立つ。帝国軍の戦力は正規軍以外にも、皇帝直轄領である王国時代の国土を守る近衛軍がおり、歩兵2万、竜騎兵1万5千、従軍魔導師5千の計4万で構成されていた。さらに侯爵以上の大貴族は領土を守るための私兵を有しており、10万に達すると見られている。
「であれば、我が領土からは5千出しましょう!領内の民も心ある者を雇い、3か月以内に3倍には増やしましょうぞ!」
皇帝の言葉を聞いた、大蔵大臣のグルシア公爵は席から立ち上がるなりそう言い、続けて産業大臣を務めるヤロウズ伯爵が挙手する。
「私は伯爵ですので私兵は持っておりませんが…領内にある工業地帯は5万もの武器を量産する事が可能です。これを倍の10万にまで増やし、増強に耐えうる生産力を発揮する事をお約束しましょう」
他の閣僚や軍人も同様に、私兵の提供や軍備への貢献方法の発表を口に出し、皇帝は頷く。
「よろしい…何としてでも、忌まわしき蛮族どもを殲滅し、ジュラシアを取り戻すのだ!そのための出費と準備はどれだけかかろうとも構わぬ!必ずや、勝利をもたらせ!」
『御意!』
閣僚一同が頷いて答える中、一人の青年は小さく鼻を鳴らし、その場を後にする。そして背後から現れた、軍服姿の男と話し始める。
「殿下、ミルヒスの工場は稼働を開始。人員も移住者で十分に確保できます。来年までには十分な戦力で反攻を開始できるでしょう」
「ああ…だが、これ以上の増強を成すには、父や古き者どもは厄介だ。他の皇位継承者も邪魔であるし、次の会議では上手く立ち回ってみせよう。このままでは我が国は発展が見込めぬからな。そして『跳躍点』を用いた、より効率的な労働力の確保も頼むぞ」
「御意に…」
殿下と呼ばれた青年、帝国皇太子ザール・リバティアは部下の男にそう答えながら、自室へと歩んでいった。
ジュラシア王国戦記 広瀬妟子 @hm80
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