第4話 鋼鉄の騎兵団
西暦2002(平成14)年4月。この日、陸上自衛隊はジュラシア西部の広大な平原にて、牽制を主目的とした大規模演習を行っていた。
日本本土や海外のメディアにも大々的に招待して行われた演習では、第1師団のみならず、各部隊より自衛官を抽出して編制した第21師団と第22師団が参加しており、その規模は日本本土で行われる演習を遥かに上回るものであった。
お台場での攻防戦を契機に、自衛隊への入隊志願者は右肩上がりとなっており、それ故に新たに2個師団を組む事が出来る程の人的リソースを確保できていた。しかし担当地域は入隊したての自衛隊員では馴染む事の出来ない場所であるため、自衛官が優先的に配備されていた。
装備は非常に充実していた。この世界には魔物が生息しており、リバティア帝国軍も多数運用しているため、機甲戦力の充実は不可欠であった。
まず主力戦車は、90式戦車の増産分が第21師団の3個戦車連隊と第22師団の1個戦車連隊に配備開始され、数の埋め合わせは74式戦車の近代化改修型が用いられている。最大射程1000メートルの火炎放射や、魔法使いの攻撃魔法を防ぎつつ確実に撃破するためには、105ミリライフル砲より射程が若干高い120ミリ滑腔砲の方が適しているが、数が足りていないのでしょうがないところである。
続いて装甲車は、89式装甲戦闘車の増産分が第21師団に属する第54普通科連隊に優先的に配備が進められたが、生産量がまるで定数に届かない事から、73式装甲車による数合わせと、アメリカより新規製造されたM2ブラッドレー歩兵戦闘車や、中古のM113装甲兵員輸送車の購入が行われていた。
そのほかの戦力の充実も怠らない。先ず特科部隊としては、99式自走りゅう弾砲の小杉製作所でのライセンス生産が開始され、さらに90式戦車の車体に87式自走高射機関砲の砲塔を搭載した02式自走高射機関砲が開発。日本の防衛産業は予想だにせぬ特需で湧く事となり、アメリカの兵器産業も弾薬や装甲車両をメインに大量輸出を達成していた。
「陸上自衛隊の機甲部隊は、皮肉にも格下の存在に対処するために充実の機会を得た」
とは、陸上自衛隊の機甲部隊の急速な戦力増強に対する評の一つであるが、実際は異なる。この世界に住まう魔物は、非装甲の自動車程度なら容易く破壊出来る程の恐ろしい生物であり、火力も高い生命力を持つ竜を確実に撃破出来る分の高さが求められていた。
その際、ドルジが共和国政府書記長としての仕事の傍らに纏めていた生物図鑑は、日本人がどんな生物に警戒しつつ、有用な天然資源として利用すべきかの指標となった。ドルジは後年様々な肩書や二つ名を背負う事となるのだが、その中には『ジュラシアのシートン』というものがある様に、彼の動物図鑑はこれまでリバティアの学者が真面目に取り組んでこなかった、リバティア大陸の魔物や生物を地球式の分類でまとめる博物学的事業に大きな一石を投じる功績として歴史的価値を得るのである。
そうして自衛隊が急速な『軍拡』を成し遂げる一方で、共和国国民議会議長のグルドは、首都として整備の進むディラント平原の都市
だが、自動車の使い方を知る者が増えたとはいえ、現状の自警団は志願者のボランティアに過ぎず、民主主義国家として理想的な国民軍として自立するためにはもう少し年月を必要としていた。
「我が国は未だに若い。さらに人口すら少ない。近年では他の地域からヒト族、亜人族の違いなく移住者が増えてきているが、リバティアに対して真正面から対抗できる程の国力は無い。グルドは少しばかりないものねだりをしてしまった様だ」
回顧録にてドルジは、議長の先走った行為をその様に批難した。他方で日本も、魔法や魔物の対処を自力で何とかしなければならない事や、魔法を用いた破壊工作で戦況をひっくり返される危機感を抱き、独自に魔法研究所を設立する事となる。
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