第3話 リバティア共和国、誕生

 魔人族との接触後、日本国政府はディラント死の大地平原にある『跳躍点』を囲む様に築かれた陣地に、リバティア大陸特命担当大臣を首班とした連絡所を設置。政治の関わる問題はこの場で取り扱われ、ドルジら魔人族も交渉の玄関口として利用していた。


 そして西暦2002(平成14)年3月1日、ドルジは新田にった特命担当大臣に対し、複数の集落や部族出身の青年たちで地球世界の政治システムの研究と学習、そして最終的に国家としての再独立を目標とした委員会組織を立ち上げる事を通知。その翌日に『自治研究委員会』が設立した。


 12の集落ないし部族より来た青年で構成された組織は、立案者であるドルジを仮のリーダーとして基本的な方針と選挙方法を決めると、直ちに委員長を決める選挙を実施。別の集落よりやってきた青年ウルドが初代委員長に任命された。ドルジはナンバースリーに当たる書記長となり、本格的な議会を開くための政治活動を開始した。


 この頃、日本の評判が広まるに連れて、生活水準の向上を試みないばかりか『新たな友人』たる日本を邪険に扱おうとする、老人たちの老害振りに辟易する者が増えており、万が一日本が自分たちを支援出来なくなったとき、自力でリバティアに対抗するためには強固な政府に率いられた国家を自分達で手に入れるしかないと結論を下す者が多かった。


 日本で用いられている政治システムの啓発を目的とした政治活動と、最初の議会設立のための選挙運動が開始されて2か月。5月5日の日本国政府と自衛隊の協力を借りて行われた投票と、立候補した者の新田特相の前でのプレゼンによる選考の結果、意見調整を得意とする青年グルドを議長に据えたジュラシア国民議会が設立。日本国政府がこの世界において最初に国家として正式承認した自治組織『リバティア共和国』が生まれる事となる。


・・・


西暦2002(平成14)年5月9日 アメリカ合衆国ワシントンDC


「『あちら側』で本格的な民主主義国家の建国を目指す動きが出てきているそうだな」


 ホワイトハウスの一室で、大統領はレジュメを読み込みながら言い、隣席する補佐官も頷きながら応じる。8か月前のニューヨークで起きたテロ騒ぎから、アメリカ国内では警戒態勢が敷かれ、同時にテロリストの出所であるアフガニスタンへ出兵を行っている最中ながら、同時に政府は、異世界での侵略国家との戦闘に臨んでいる日本へ弾薬や装甲車の支援を行っていた。


「何でも、リバティア神聖帝国なる専制国家に支配されていた先住民達が、日本からの支援を受けて独立運動を始めた模様です。すでに生活基盤は日本の手で完成されており、自治自体も始まっているそうです」


「となると、今後継続して自立できるかが問題となるな…して、日本はどうやって事の終息を目指す気か?」


「はい。まず日本としては、リバティア帝国との講和を目指しております。『跳躍点』と呼ばれている構造物の除去方法が不明な以上、緩衝地帯としてジュラシアの先住民達の独立を求めるのは明らかです」


 ジュラシアの住民の総数は、現時点で把握できているだけでも1万に満たない。当然ながら生産力は貧弱そのものであり、近代的な生活水準もようやく日本からもたらされたばかりであるため、しばらくは日本の保護下で成長する事となるだろう。


「リバティアより賠償を得られるのか否かが不明な現状、日本は『金の卵を産む鵞鳥がちょう』を育てる事に重きを置くでしょう。そしてその鵞鳥を守る小屋は、我らが建てる手伝いをするにとどめるべきです」


「そうだな。我らは今、ニューヨークで虐殺をかましたアフガンのイカレポンチ共を締め上げねばならん。にしても、イラクが自主的に軍縮を開始したのは驚愕に値するな」


「ええ…北朝鮮もなぜか、核開発の規模縮小を通知してきておりますし、これで我らはアフガニスタンに集中する事が出来ましょう」


 大統領は秘書の言葉にうなずき、改めて日本国及びジュラシア共和国への手厚い支援を行う様に、指示を出したのだった。

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