第1話 21世紀対13世紀

 西暦2001(平成13)年、日本の中心である東京は騒乱状態に陥っていた。


 8月の暑い日、東京都の臨海部にて謎の構造物が出現。高さ15メートル程度の正方形をしたそれは、四方に高さ6メートル程度の入口があり、直ちに警察が調査に赴いた。そして入口の内部へ足を踏み入れようとしたその時、彼らは現れた。


 竜騎兵を先頭に立てて、戦列甲歩兵がそれに続く隊形を取るリバティア帝国軍突撃部隊は、その突撃のパワーで警官を蹴散らし、遅れて大弓兵や飛竜を収めた馬車の集団が現れる。先発隊として現れた2万の軍勢は、後に『跳躍点マーカー』と呼ばれる事となる構造物の現れた埋立地を占領。侵略のための橋頭保を築き上げる。


「蹂躙せよ。魔法を知らぬ、愚かな蛮族どもを殲滅せよ。そして我ら偉大なるリバティアの民のための新天地を築き上げるのだ」


 指揮官を務める将軍は声高らかにそう言い、構造物より次々と軍勢が現れ、陣形を構築。氷魔法によって幾つもの橋を築いて、周辺の地域へと侵攻を開始したのである。この時帝国軍が動員していた兵力は、歩兵が5万、竜騎兵が1万5千、大弓兵が5千、その他工兵や従軍魔導師も含めれば、8万もの大軍が都心の直ぐ近くに現れる事となったのである。


 この未知の侵略者に対して、政府の対応は遅きに失した。まさか首都の目前でこの様な蛮行が繰り広げられる事など、想像だにしていなかったからだ。緊急閣議が執り行われ、自衛隊を出動させるべきか否か議論する事となったのだが、その間にもリバティア帝国軍は羽田空港やお台場にも兵を進め、暴虐の限りを尽くしていた。


 もはや放置など許されざる時点にまで至っていた。政府は1時間程の議論の末に重い腰を上げ、戦後初めての防衛出動を発令。陸上自衛隊第1師団及び第一空挺団、海上自衛隊第1護衛隊群、航空自衛隊第7航空団が首都防衛のために緊急出動したのである。


 戦闘は激戦となった。お台場や羽田にて虐殺と略奪の限りを尽くしていた帝国軍は、現地の一般人を捕らえては奴隷としてこき使うために連れ去ろうとしており、一般人の身柄保護という難題にも向き合わねばならなかった。


 その結果、一方的に大火力で殲滅するという戦術を取る事は出来ず、装甲車両で突撃して敵部隊に肉薄し、白兵戦を仕掛けるという無謀な戦い方を余儀なくされた。だが技術水準の大きな隔たりがその無謀を実現可能なレベルに至らせていた。


「これ以上の暴虐を許すな!突撃!」


 指揮官の命令一過、数十両の装甲車両が前進。木更津より飛んできた第3対戦車ヘリコプター隊とともに竜騎兵の集団に迫る。地竜リントブルムは火炎放射によって対抗を試みるも、射程距離は僅か200メートル程度であり、第1戦車大隊に属する74式戦車は、1000メートル先より105ミリ砲弾を発射。リントブルムを一方的に肉塊へと変えていく。


 竜騎兵に致命的な打撃を与えた次は、96式装輪装甲車の集団が突撃。リントブルムの死骸の間を通って敵歩兵に迫ると、車上の12.7ミリ重機関銃や40ミリ自動てき弾銃を発射。歩兵は瞬時に金属製の鎧を撃ち抜かれ、鮮血と鎧の破片、そして肉片を道路上にまき散らす。


 魔法使いは防御魔法を張る事で銃弾に耐えたものの、12.7ミリ銃弾の驟雨には耐えきれず、ガラスが割れる様に防御魔法を貫かれ、銃弾を受けた身体が弾ける。絶叫はない。声を上げる間もなく即死し、仮に出せたとしても銃声と砲声で掻き消される。


「押し込め。確実に撃破せよ」


 師団長の命令を受けて、第1師団各部隊は74式戦車を前に出して、壊乱しつつある敵軍との距離を詰めていく。だが本当に苦しいのはここからであった。


 帝国軍は敗北は免れないと理解しつつも、戦利品たる捕虜は着実に『向こう側』へと連行していった。連れていく事の出来ないと判断した者は即座に処刑され、時には肉壁として相手に攻撃を躊躇わせた。まさに外道の所業であった。


 戦闘は夜を跨ぎ、日が昇る頃には掃討戦の様相を呈していた。この頃になると自衛隊は大量の催涙弾や発煙弾をヘリコプターで投下して視界を奪い、直後に隊員を空挺降下で突入させるというヘリボーン作戦で民間人奪還と敵部隊撃破を行う様になっていた。そしてリバティア帝国は、航空戦力たる飛竜騎を損耗した事で制空権を失い、圧倒的不利に陥っていたのである。


 戦闘開始から3日目。自衛隊は跳躍点そのものに対して直接襲撃を敢行し、大規模空挺降下作戦によってこれを占領。そして奇妙な事に、制御を司っていたと思しき魔法使いたちは混乱の様子を見せていたが、当時の魔法を知らぬ日本人たちには理解できぬ事であった。


 斯くして、後に『お台場防衛戦』と呼ばれる事になる戦いは、日本国自衛隊の勝利に終わった。だが損害は大きかった。自衛隊が陸自第1師団と第一空挺団、空自第7航空団を投じて、6万の敵兵を殺傷し、1万を拘束するという手柄を上げたのに対し、魔法使いの魔法攻撃や戦列甲歩兵との近接戦闘で殉職した者13名、負傷者200名超。民間人もお台場の繁華街や羽田空港を中心に4万人が殺され、1万人近くが行方不明となった。


 この甚大な被害とそれをもたらした異世界の脅威を前に、世論は怒りに湧いた。何としてでも悪辣残虐な連中を許すなと、自衛隊への志願が相次ぎ、左派の知識人やメディアは沈黙を余儀なくされる。そして政府もまた、交渉の機会を得るためにと自衛隊の対外派遣を決定。日本は新しい戦争と真正面から向き合う事となったのである。

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