ジュラシア王国戦記
広瀬妟子
序章 或る勇者の物語
その昔、世界は魔王に支配されていた。幾多もの魔物を従え、強力な魔法により優れた文明を築き上げた魔人族は、素の身体能力も、魔法のレベルも低いヒト族を下等な種族とみなし、奴隷としてこき使っていた。
それに対して、世界の西の果てに築き上げられた国では、魔王の支配に対抗する者たちが立ち上がり、リバティア王国を建国。そして優秀な魔法使いたちの手によって、異世界より何人もの勇者を召喚した。
勇者たちは当時のヒト族をも超える能力を持ち、これまでリバティア王国の者たちが想像しえなかった知識や技術で軍隊を強化。そしてあらゆる場所で魔王軍を撃退し、多くの地域を解放していった。世界の半分が解放された頃には、リバティア王国軍はまともな正規軍を編制し、魔王軍に対して量でも対抗できる様になっていた。
そして戦争が始まって10年が経ち、王国軍は魔王城を包囲。7日間に渡る激戦の末に、勇者は多くの仲間たちを犠牲に、諸悪の根源である魔王を討ち倒したのである。
こうして、世界に平和が取り戻された。だが、その後はどうなる?この当時のリバティア王国には、当時の世界の範囲である大陸より、海を渡って別の世界に向かう技術は無かった。そして主だった外敵が存在しない中、世界は用済みとなった勇者と見捨てたのである。
勇者たちの中でもそこそこ名の知れた生き残りの一人は、古びた宿の一室に泊めてもらい、簡単なクエストでその日暮らせるだけの糧を得て生き延びていたものの、魔王滅亡から20年近くが経ち、『恩恵』によって朽ちぬ身体を疎まれる様になって、何処か遠くへ姿を消した。
そうして最後の一人が表舞台が消えた後、リバティア王国は世界の統一に向かう。勇者たちを召喚した魔法使いを神とする『救世教』を抱え、勇者たちのスポンサーとして名声を得ている王家の率いる王国軍は、かつて魔王軍が使っていた地竜リントブルムや翼竜ワイバーン、魔王城に残されていた書物を研究して得た魔法や武器を持ち、攻撃魔法を放つ槍と防御魔法を展開する盾に鎧で武装した
そして魔王滅亡から30年後、リバティア王国は新たにリバティア神聖帝国へと改称。世界に覇を唱えた。皇帝は表立った反乱を防ぐために、世界各地の代表者を一堂に集めて議論させる世界元老院を築き、武力ではなく法によって支配する。魔王がリバティア王国の反乱を招いた原因を知らぬ程に当時の皇帝は愚かではなかったし、唯一の懸念であった勇者も不老長命といえど飲まず食わずで生き延びる事は出来ない。実際、勇者の生き残りの一人を使った人体実験では、投獄から1年程で餓死したし、朽ち果てぬ身体を駄目にする手段などいくらでもあった。
そうしてリバティア帝国が世界を統一し、技術の進展によって産業が発達。海の脅威たる海獣も造船技術の発達で対抗できる様になり、物流と隣接する陸地との交流が開始。世界が急速な発展を遂げる中、最後の勇者は冷めた目でそれを見つめていた。
「これが、私が…私たちが命をかけてまで救おうとした世界なのか」
大陸の北東、針葉樹のひしめく森林地帯にて、帝国東方開拓団が切断魔法で木々を切り倒し、リントブルムで荷車を引いて物資を運ぶ様子を見かけた勇者はそう呟く。そして勇者は森の奥深くに足を踏み入れ、一つの魔法を行う。それは多くの命と相当数の時間を必要とするものであったが、知り合いの魔法使いや魔王城より盗んだ書籍にて改良を行い、1週間かけて術式を一つの地域に作り上げたのである。
そして術式が完成し、最後に自身の命を捧げる事によって完成しようとしていたが、そこに邪魔が入る。帝国軍の警戒部隊は勇者を『時代遅れの死にぞこない』だと侮って襲い掛かったが、圧倒的多数の強敵を葬り去るための戦技と、それを十分に使いこなすための肉体は朽ちていなかった。
降りかかる弓矢の雨を剣の一振りで吹き飛ばし、突撃からの疾風が如き斬撃によって数秒で十人の首を刎ねる戦技は、指揮官に一つの絶望を抱かせた。何故祖国は勇者を軽んじたのか、と。しかしその思考の直後に彼の命は散った。
そして魔法は発動した。長い時間をかけてその一帯の生命力を吸い取り、百年後に大地に根を下ろした、一つの術式として完成されたのである。
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