13.スキル検証②(ペットボトル)




「よっしゃぁぁぁ~~~!」



 俺は年甲斐もなく、思わず大喜びして叫び声を上げていた。なんだかよくわからないけど、確かに召喚できたんだ。


 やる前はあれだけあ~だこ~だ心配してたけど、結構簡単だった。

 こういうのを杞憂って言うんだろうな。

 俺はそう思いながら、近寄ってくるエルフィーネに笑顔を向けた。



「どうやら成功したみたいですね」

「うん、多分ね」



 安堵したような表情を見せるエルフィーネ。

 俺はそんな彼女を見つめたあとで、砂まみれになっていた五〇〇ミリリットル入りのペットボトルを拾おうと腰を曲げたのだが、その瞬間――



「え……?」



 突然、目の前が一瞬だけ暗くなって立ちくらみに襲われた。



「あ、危ない!」



 何が起こったのかよくわからないまま、ひっくり返りそうになる俺を慌てて抱き留めてくれるエルフィーネ。



「ご、ごめん……。なんだか急に頭がくらっとして……。ひょっとして、暑さにやられたかな?」



 彼女の腕の中から上を見上げるようにして呟く俺に、エルフィーネは眉を寄せた。



「おそらく、魔力消費による倦怠感だと思います」

「え……? 倦怠感?」


「はい。ユキが使う召喚魔法が私のものと同じかどうかわかりませんが、慣れるまでは、魔力が減る度に目眩などに襲われることがあるんです。私も初めて使ったときにはそうでしたから」


「そう……なのか。じゃぁ、これってやっぱり、エルの魔法と一緒で俺も連発できないってことかな?」


「なんとも言えませんが、慣れるまでは少しずつの方がいいと思います。それに、魔力が空っぽになってしまうと、多分、マインドダウンを引き起こして気を失ってしまうと思いますから」


「マジか……」

「はい」



 なんとも使えないスキルだった。


 たった一発でこれとか、マジで笑えない。エルフィーネの話だと、慣れれば問題ないらしいが、俺、元々魔術師――ていうか、召喚スキルで召喚するから、召喚士って言った方がいいのかな?


 まぁ、ともかく。

 俺は本来は召喚士とかじゃないし、魔力とかもこのスキル覚えてから意識するようになった要素だから、いったいどれだけ使えば慣れるんだろうか。


 多分だけど、レベル上げるには何度も使って熟練度とか経験値みたいなものを蓄積させていかなくちゃいけないんだと思うし、そうやって考えると、やっぱり、苦痛を堪えながらも使い続けるしかないってことか?



「なんだか先が思いやられるよ」



 俺はエルフィーネに感謝を告げてから、彼女のほんわかした包囲から離れると、砂浜に転がっていたペットボトルを拾った。



「うはっ、つめた!」



 手に取った瞬間すぐわかる、氷のような冷たさ。

 本当に想像した通りのキンキンに冷えた水が召喚されていた。



「そんなに冷たいんですか?」



 先程までの疲れもどこへ行ったのやらというほどにニヤッとしていた俺を、エルフィーネが不思議そうに見つめてきた。



「これ、持ってみて」



 ニヤニヤしながらそう言って、彼女のほっそりとした手に握らせてみる。



「きゃっ。な、なんですか、これ? 新手の魔道具か何かですか?」



 切れ長の瞳をこれでもかと言わんばかりに目一杯広げるエルフィーネを見て、更に笑ってしまったのだが、そのすぐあと、ああそうかと、俺は思い出していた。



「そう言えば、エルはペットボトルって知らないんだったな――て、あれ? そう言えば、なんでペットボトル入りの水を呼び出せたんだ? 確か異世界にあるものを召喚するはずだよな。ひょっとして、この無人島以外の世界はすべて異世界ってことになるのか? いや待て待て待て。さすがにそれはおかしいだろう。この世界って地球に存在する異世界なんだぞ? だったらやっぱり、地球上にあるものを召喚できるはずないと思うんだけどな」



 一人ブツブツ言っている俺に、ペットボトルを手にしたままだったエルフィーネがきょとんとしていた。


 俺はそんな彼女を眺めながら、やはり、この辺も検証してみる必要があるんだろうなぁと、改めて実感するのだった。



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