10.持ち物チェックしてみました




 俺とエルフィーネは二人連れたって、とりあえず場所を移すことにした。


 本当は――



「ひゃっほぉ~~! 海だぁぁ!」



 と叫んで、白い砂浜へとダッシュし、そのまま碧い大海原へとダイブしたいところだったが、そんなことをしている場合ではない。


 俺もエルフィーネも、食料や水を何も持っていないのだ。そんな状態で遊び惚けてなどいたら、あっという間に餓死してしまう。


 さすがの俺も、そこまで馬鹿ではない。

 ていうか俺、よく考えてみたら会社帰りそのままの格好でここへと飛ばされてきたから、スーツに革靴姿のままなんだよな。


 上は半袖ワイシャツだからいいけど、下はちょっとね。

 そんな格好で砂浜なんか歩きたくない。

 それに、元いた場所も夏場で暑かったけど、この島も常夏陽気で暑いしな。


 年がら年中暑いのかどうかわからないけど、とにかく、今優先すべきことは水と食糧の確保だ。


 そんなわけで、俺たちは今、西なのか東なのかわからないけど、先程の森から少し行った先にできていた開けた場所へと来ていた。


 ここはすぐ側にでかい椰子の木のような樹木が二本ほど、空に向かって伸びていてその下には草は何も生えていなかった。

 代わりにあるのが白浜とでかい石。

 岩って言った方がいいのかな。

 そういうのがある場所で、丁度日陰にもなっていたから休憩するにはもってこいの場所だった。


 多分、野営場所としてもぴったりだとは思う。

 この島がどのぐらいのでかさかわからないけど、無人島とは言え、森の中には何が潜んでいるのかわからないからだ。


 何しろ、異世界の無人島なわけだし。例によって魔物とか魔獣とかがいたら、一発でノックアウトだ。

 だから、あんまり奥地で野営はしない方がいいと思う。



「じゃぁ、とりあえず荷物チェックからするか」



 俺とエルフィーネは直径二メートルほどの巨大で平らな岩の上に二人して腰かけた。

 足下は砂地だったが、すぐ側にはもう一つ巨大な岩が転がっていた。高さ三メートル。横幅五メートルぐらいだろうか。


 そんな大岩の下の方が、見事なまでに洞のようになっていた。俺は今日の寝床はそこがいいと密かに考えている。

 そういった場所で、お互いの所持品を確認した。



「私はこれだけですね」



 そう言って彼女が服のポケットから取り出したのは、宝石のような色とりどりの石ころだった。



「それは?」

「これは魔法触媒と言って、私たちが暮らしていた森の奥深くに、精霊王様を祀っている聖域があるのですが、そこに自生している神木から採れた樹液に魔力を込めたものが、これになります」



 なんだかとても心引かれるワードに、自他共に認めるオタク心がくすぐられたが、悟られないようにしながら頷いた。



「そんなのがあるんだね。で、それって何に使うの?」

「そうですね。新たな精霊と契約するときや、契約していない精霊を一時的に呼び出すときに使われます」


「なるほど。じゃぁ、もし仮にこの島に変な奴がいたりしたら、そういうときに使えそうかな?」


「状況次第ですが、この島に私が呼び出せない精霊が住んでいたら、彼らにお願いして敵と戦ってもらったり、新たな契約を結んだりすることも可能かもしれません。ですが、数に限りがありますので、使いどころは慎重に選ばないと」

「そっか」



 彼女が提示した魔法触媒とやらは五つほどだった。

 それを使い切ってしまったら、もう無契約精霊とは交信できないということなのだろう。



「私が持っているのはこんなところですね。ユキの方はどうですか?」

「あぁ、うん。今、中身全部開けるよ」



 なんだか、エルフィーネはとても興味深そうに俺のリュックを見つめていた。

 やっぱり、こういうリュックって、彼女の世界には存在しないのかな?

 それとも単純に中身が気になるだけなのか。


 そんなことを考えながら、適当に中身を岩の上にぶちまけた。

 出て来たのは携帯電話、財布、免許証、タオル、高カロリーメイクという携帯スナック。

 それから飲みかけの水。そのぐらいだろうか。


 あとは飴玉とかノートとか、ガチャで当たったクソどうでもいい温泉券やらクーポン券ぐらいだ。


 当然、こんなへんぴな場所に来てしまったわけだから、携帯電話は圏外な上に充電もできないからただのガラクタみたいなものだ。

 もしかしたら、エルフィーネにお願いして電気的な魔法でも使ってもらえば充電できるかもしれないけど、でもまぁ、常識的に考えれば普通に一撃で壊れるわな。


 だから、当然、これは何かあったときのために電源をオフにして置いた方がいいだろう。


 次は財布だけど、当たり前だが中身は空っぽな上に、たとえ百万入っていたとしても、今となっては紙くず同然だ。

 ポイントカードとかも同様に、薪の代わりにしかならないだろう。


 免許証とかもそうだし、ノートやガチャの景品とか、やっぱり焚き火の種にしかならない。


 そうやって消去法で消していくと、今俺たちにとってとても貴重な品と呼べるのは、携帯スナック菓子と飴玉、水、それからタオルぐらいだろうか。


 やっぱりこれじゃぁ、一日と持たないよな。なんとかして、水と食料を調達しないと待っているのは死あるのみだ。



「これ、なんですか?」



 そう言って、エルフィーネは岩の上に置かれていた携帯電話を指さしていた。

 なんだか切れ長の美しい瞳が、とんでもなくキラキラしているような気がするんだけど?


「これは……なんて言ったらいいんだろう? 通信機器のような?」

「通信……? なんですか、それ」

「えっと、遠くにいる人と離れていながら会話できる装置、って言ったらわかるかな?」


「……? 魔法触媒みたいなものでしょうか? あれも一応、精霊たちと話をするためのものなのですが」

「あぁ、うん。多分、そんな感じなんじゃないかな? 正確に言うと違うけど」

「そうですか……」



 そう言ったときの彼女の顔は、やはり、おもちゃを見つけた子供のような表情を浮かべていた。

 これ、いつか機会があったら、使ってみようかな。


 俺は密かにそう心に誓い、他の持ち物の説明も一通り行うのだった。



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