6.最高に可愛い美人エルフさん
多分、やっぱり三メートルぐらいだと思う。
先程と同じ位置に立って、警戒したような視線を俺へと向けていた美人さん。
彼女は既に半裸などではなく、上半身は白の長袖ブラウスみたいな服を身につけていて、下は緑色の膝上丈のタイトミニスカートのようなものを履いていた。
足は……うん。多分生足だと思われる。
顔同様、真っ白な肌をしていて、靴は踵の高いショートブーツのようなものを履いていた。
どうやら服も一緒に召喚されていたようだ。
色んな意味で安心し、ほっと息を吐く。
それにしてもあの姿、どこからどう見ても俺が普段イメージしていたエルフそのものだった。
ちょっと冷たい印象を感じさせるクールビューティー。
近づいただけで引っ叩かれそうな、そんな雰囲気すら醸し出している。
そして、特徴的なあの耳。
あれを見れば誰がどう見たって一目でエルフとわかるし、それに……。
俺はとある一点を見つめて、顔をピクッとさせてしまった。
股の辺りで両手を合わせるように立っている彼女。
二の腕に挟まれるようにして自己主張しているとんでもなく大きな二つの膨らみが、少し動くだけでぷるんと揺れ動いていた。
間違いない。
俺が召喚スキルを発動するときに想像していたエルフの姿そのものだった。
確か召喚するときには妄想力が大事とか書いてあった気がする。
明確なイメージができあがってないと失敗するとも。
だからだろう。あのとき、変に妄想力膨らんでたから、こんなにもイメージそっくりの女の子が召喚されたんだろうな。
勿論、彼女だけじゃなく、無人島――多分、無人島だよな? それも理想通りだと思うし。
俺は一瞬だけ、左手側へ視線を投げた。
先程から、ざざ~んと、小気味よい波の音がしていたけど、やっぱりあった。
昼の陽光に照らされた真っ白な砂浜が辺り一面に広がっていた。
そして、更にその先には、キラキラと光り輝く大海原が自身の存在を誇示していた。
どういう理屈かわからないけど、当然、無人島だけ召喚したってしょうがないわけだし、それと一緒に親切にも海まで召喚されたということなのだろう。
俺と眼前のエルフは、そんな無人島世界に放り込まれてしまったというわけだ。
「……まさか、本当に召喚できるとはな」
俺は改めて自分の置かれた状況を確認し、どうしたもんかと頭を悩ませた。
もしここが本当に無人島なら、今すぐライフラインとか寝る場所とか色々確保しておかなければならない。
じゃないと、いきなり詰んでしまう。
しかし、それを許してくれないのが今の状況だった。
先程から刺すような視線をこちらに向けて来ている警戒感剥き出しの美人エルフさんの視線が非常に痛かった。
まぁ、当然と言えば当然か。
不可抗力とは言え、俺があのエルフ娘を召喚したことに変わりないわけだし。
言ってみればこれって、結果だけ見れば俺が無理やり異世界から彼女を召喚したってことになるわけだし。
当然、そんなことされたら怒るに決まっている。俺だったらまず間違いなくそうしているだろう。
『おい、ふざけるな。元いた世界に帰せよっ』と。
俺は、こちらを胡乱げに見つめてくる彼女を遠慮がちに一瞥した。
なんとなくだけど、やっぱり怒っている気がする。
全身からどす黒いオーラが見えてきそうな、そんな感じだった。
どっと冷や汗が吹き出して来る。
「え、えと……」
せめて事情だけでも説明して、状況を理解してもらおうと思ってそう声をかけながら一歩近づいたのだが――
「こちらへ来ないでください! それ以上、近寄ったら攻撃します!」
とかなんとか言いながら、彼女は右の人差し指を俺の方へと突き出して来た。
その指先が、仄かに光り始めた気がする。
まさかこれって、精霊魔法?
「ちょ、ちょっと、待ってっ。危害を加えるつもりなんか、まったくないから、落ち着いてくれっ」
「嘘をつかないでください!」
「嘘じゃないってばっ」
「嘘でなければ、どうしていきなりこんなことになってるんですか!? さっきまで私、家で着替えをしていたはずなんです。それなのに、気が付いたらこんなわけのわからない場所に連れ出されて! しかも、そのとき、おかしな魔力を感じたんです! 精霊魔法とも元素魔法とも違う不可解な魔力の波動を! その波動を、どうしてあなたから感じるんですか? これ、おかしいですよね? あなたがおかしな魔法を使ったんですよね!?」
早口でまくし立ててくる彼女に、益々、全身から脂汗が吹き出してきた。
「いや、あの、その……もしかしたら君の言う通りかもしれないし、違うかもしれないし……! だけど、俺は別にやましいことをしようとしてたわけじゃなくて。ていうか、不可抗力って言うか――あぁ、もう! 俺は何を言ってるんだ! とにかく。俺はなんにもしてないよっ。信じてくれ! ていうか、おかしな魔力波動ってなんだっ?」
自分で言っておきながら、何を言っているのかわからなくなってきた。
確かに事故みたいなものだったけど、召喚スキルが発動してしまったのは事実だし、それを使ったのも結果的には俺だから、彼女を無人島に連れてきてしまったのも俺ということになる。
だから、一方的に責められるのは仕方ないかもしれないけど、でも、しょうがないじゃないか。
俺だって、使うつもりなんてなかったんだから!
「と、とにかくだ! 俺の話を聞いて欲しい! 俺だって、なんでこんなことになったのかわからないんだからっ。ここがどこなのかも、君が誰なのかもさっぱりわからないし!」
俺はダメ元でじっと彼女を見つめた。
もしこれで警戒を解いてくれずに攻撃されたら、多分俺は死ぬだろう。
だって、俺、ただの日本人だし。
彼女みたいに魔法使えるわけじゃないし。
初回特典で戦闘スキルがどうとか書いてあった気がするけど、今こんな状態でスキルの有無を確認なんかできるわけないし。
そんなことしてたら、間違いなく殺される。
なんだか情けなくて涙が出そうだよ。
やっぱり、無人島とか言わずに異世界全部を地球の上に持ってきた方がよかったんじゃ?
そうすれば、神様パワーとかで無敵になれただろうし。
「はぁ……」
一向に警戒を解いてくれないエルフ娘に絶望し、溜息を吐いて項垂れた。
そんな俺を見てどう解釈したのか。
「――そうですか」
彼女が誰かと話している風な声を出していた。
俺は気になって顔を上げて――そこで、「えっ?」と固まった。
なぜなら、彼女の真横におかしな生き物がいたからだ。
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