5.絶海の孤島と召喚エルフ
俺は自分の身に何が起こったのか、まったく理解できなかった。
先程まで、怪しげな小道の先にあった胡散臭いたばこ屋の前にいたはずだ。
なのに今、俺の目の前にはおかしなものが見えていた。
いや、正確に言えば、あまりにも眩しすぎて目を開けていられなかったと言った方が正しいかもしれない。
今まで暗がりにいたからということもあるんだろうけど、とにかく、眩しい。
ただ、それでも、視界は奪われたままだったけど、聴覚だけはしっかりと働いていた。
どこか遠いところから微かに聞こえて来るさざ波のような音。
潮が満ち引きするあの心地いい音。
なんとなくだけど、どこからか、鳥のさえずりまで聞こえて来た。
しかも。
なんだか、植物の青臭さや潮の香りまで。
なんだろう。
とんでもなく、今いる場所がアレっぽくて、心臓の鼓動が高鳴ってきた。
――まさかな……。
俺は少しずつ瞼を開けて行き――そして、愕然とした。
「は……? え? あ? ……はあぁぁ~!?」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。
俺は先程まで、確かに都会の雑踏の中に溶け込んでいたはずだ――まぁ、正確に言うと、都会の中にわいた奇妙な暗黒街のような場所だったけど。
だけど、それなのになんで今、俺は森の中にいるんだよっ。
周囲を見渡せば、足下にはなんの植物かわからない草まで生えている。
背の高い椰子の木のような樹木も所狭しと生えていた。
すぐ近くの空からは、明らかに波の音が聞こえて来ている。
俺はそれら情報から、否が応にも、ある一つの単語を連想せざるを得ない状況に追い込まれていた。
それこそがまさしく――
「島」
そのただ一言である。
あまりにも非現実的すぎて、うまく頭が回らなかった。
おかしすぎる。
なんで俺はこんなところにいるんだよ。
てか、あれか?
本当に渋谷、ていうか、地球に無人島召喚しちゃったってこと!?
これ、いったいどういう仕組み?
別次元とか並行世界とか言ってたから、つまりここは渋谷だけど渋谷じゃなくて、次元シフトした異世界で、そこに俺だけが入り込める無人島が形成されたってことか?
現実世界の地球と俺が作り出した異世界が同じ場所に存在していて、俺は異世界にいるってことか?
しかし、いくら考えたってよくわからない。
どんな現象が起こったにしろ、間違いなく、俺は今、無人島にいるのだから。
ていうか――
俺はそのとき初めてそれに気が付き、ぎょっとした。
びっくりしすぎて、心臓が止まりかけた。
それほどに、ショッキングな出来事が目の前に展開されていたからだ。
多分、三メートルぐらい離れた位置だと思うんだけど。
そこに、ショーツ一枚しか身につけていない金髪美人が立っていたのである。
彼女は俺と同じように呆然と佇んでいた。
腰までのさらっさらのストレートヘアが、微風になびいて揺れ動いていた。
少しわかり辛いけど、多分、切れ長の碧い瞳をしていて、かなりの色白肌。
そして――
俺は生唾を飲み込んだ。彼女の両耳が細長く尖っていたからだ。
「ま、ま、ま……まさか……本当にエルフなのか? てか、あのスキル、やっぱり本物ってことなのか? 俺は無人島だけじゃなくて、エルフまで召喚しちゃったってことなのか……!?」
叫んで呆然と固まったときだった。
「きゃああぁぁぁぁ~~~~~~!」
物凄く甲高い悲鳴が辺り一面に響き渡った。
その声で我に返った俺は再度、現実を直視し、
「ぅわぁぁ~~!」
意味もわからずこっちまで悲鳴を上げることとなった。
目の前の女の子が素っ裸に近い状態だったことを、今更ながらに思い出したからだ。
エルフ娘はとんでもなく豊満な胸を両腕で押し潰すように隠して、地べたにしゃがみ込んでいた。
美しくも愛らしい相貌が目に見えて真っ赤っかになっていて、俺のことを睨んでいた。
「ご、ごめんっ」
言葉が通じるのかわからなかったけど、急いで謝罪し、彼女へ背を向けた。
顔がメチャクチャ熱くなって行くのがわかった。多分、俺も赤くなっているに違いない。
「し、しばらくそうしていてください! 絶対にこっち見ないで!」
「わ、わかってるよっ」
条件反射でそう答えていたが、そこであれっと思った。
なんだか、普通に会話ができているな?
彼女が使っている言葉は当然、日本語じゃなかった。
だけど、何言ってるのかよくわかったし、なんだろう。
俺自身、意味不明な言葉を使っていた気がする。
無意識の内に。
そう言えば、なんだか初回特典で言語翻訳スキルがつくとか言ってた気がするけど、もしかして、その効果だろうか。
てか、もしそれが本当だとしたら、やっぱり俺、無人島とエルフを召喚しちゃったってことになるのか?
――これ、まずくない?
召喚したってことは、もう元の世界に戻れないってことなんじゃないの!?
てか、え? 嘘っ?
さっき俺が適当に妄想したことが現実になって召喚されたってことはつまり、もうここは無人島なわけで、当然、家も食料も水もなんにもないってことなんじゃないの?
つまり、いきなり詰んだ?
俺は再度、呆然となって固まってしまう。
そんなとき、背後から声がかけられた。
「もう大丈夫です。こちらを見ても結構です」
エルフ娘が澄んだ声色でそう告げた。
「あ、うん」
正気に返った俺は、恐る恐る後ろを振り返った。
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