4.異世界召喚




 薄暗い店先で、一人腕を組んでどうしようか考え込んでいた俺。

 勿論、このスキルを使うかどうしようか悩んでいたわけである。


 もし本当にこれが本物の召喚スキルだとしてだ。

 本当に召喚していいものなのだろうか。


 まぁ、ここでうじうじ悩んでいられる立場じゃないのは百も承知しているけどね。

 何しろ、俺は今、無一文だし!


 しかも、もし今ここでこの召喚スキルを使わなかったら、本当にただぼったくられただけの大馬鹿者になってしまう。

 だけど、だからといって、使ったら地球上に異世界ができあがってそこに閉じ込められるんだぞ?


 それってどうなのって話だ。

 二度と戻ってこられないわけだし、こんなクソみたいな人生だけど、地球にまったく未練がないわけでもない。



 葛城雪寿かつらぎゆきひさ二十七歳独身。

 年齢=彼女いない歴の典型的な人生負け組。

 それが俺だけどさ。


 それでも未練ていうか、そういうの、あるわけですよ。


 親は……まぁ、残念だけど、数年前に流行始めた病に倒れて二人とも亡くなってるし、兄弟もいないから失うものは何もないんだけど――しかし!



 そんな俺でも心残りがある。

 それはパソコンの中に溜め込んだ二次創作物のCG集だっ。


 突然、俺が行方不明になって、それが世間に露見でもしようものなら間違いなく、



『変態さん、失踪する』



 とか、記事に書かれるに違いない!

 きっと、いや、間違いなく書かれるはずだ!



 別にこの世界と永遠におさらばすることになるからそれでもいいんだよ。

 だけど、クソみたいな人生の最後が変態さんとか、そんなのあんまりだ。



「はぁ」



 一度に色んな事がありすぎて、なんか色々どうでもよくなってきた。

 どうせ、俺に取れる選択肢なんて最初から一つしかないわけだし。

 本当か嘘かわからないようなこんなおかしなものを信じて、試しに使ってみるしかないという、ホント、我ながらに情けない状態。



 俺はもう一度溜息を吐きながら、マニュアルを見直した。

 そうして、真剣に色々考えてみる。



 現実世界への異世界召喚。

 よくよく考えてみればとても魅力的だ。

 地球規模の異世界を召喚して神になりたいとはさすがに思わないけどね。


 だって、そんなの面倒くさいし。

 会社辞めたのだって、人間関係が嫌になったからというのが本音だから、椅子にふんぞり返ってああだこうだ言いながら、どうでもいい人間の相手なんかしたくない。


 なので、できれば田舎の方にでも引っ越して、誰とも関わらずにスローライフな人生を送ってみたかった。



 ――あぁ、そうだ。初回は何でもありだったよな? だったら、島とかいいんじゃないか?



 誰もいない絶海の孤島。

 見渡す限りの碧い海。

 時折吹く微風。


 砂浜は真っ白で、そんなところで日光浴なんかできたら最高じゃないだろうか。

 しかも、そのすぐ隣にはメチャクチャ美人で可愛い奥さんなんかいたりして。

 二人で海岸を笑いながら走り回ったり――



 ――て、おかしな妄想ばかりが膨らんでしまった。

 やばいやばい。

 これじゃ正真正銘の変態だよ。だけど……。


 俺はそのとき、大事なことを思い出した。

 特典で召し使いを召喚できるとかなんとか書いてあった気がする。


 慌てて再度確認してみたが、やっぱり見間違いなんかじゃなかった。

 確かに一人だけ召喚できるって書いてある。


 これ、どんな人間でもいいのかな?

 非現実的なまでにスタイルのいい美少女とか。

 ていうか、異世界にしか存在していないような空想上の女の子。


 ――そう、例えばエルフ!



 俺は思わず悶々としてしまった。


 エルフと言えば金髪碧眼で、とんでもなく美人と相場が決まってる。

 でもって、華奢で手足が長くて精霊使いで。

 あとは森の人だっけ?


 だけど、たまにはいたっていいと思うんだ。

 美人だけど可愛くて、華奢だけどやたら胸のでかいエルフ!


 そう、メチャクチャ色っぽいエルフがいたっていいと思うんだよなぁ。



「うんうん。なんかいいよなぁ。で、ちょっとだけセクシーな感じのと一緒に送る、まったりスローライフ! そんな生活送れたら最高だろうなぁ。もし本当に召喚できるなら、そういうのをしたいよなっ」



 俺は妄想しすぎて興奮のあまり、思わずそう叫んでしまった。

 そしたら、次の瞬間――



 すべての景色が暗転した。



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