3.異世界召喚スキル
なんだか非常におかしなことになった。
ていうか、浅はかなことをしたせいで、貯金だけでなく財布の中身も空っぽになってしまった。
そんなところへ来て、おかしな一冊の本を見つけるとか、俺もいよいよ焼きが回ってきたな。
――てか、こんなもん、さっきなかったよな?
特賞とか書いてあるから、当たってたのか?
だけど、一万円がこんなへんてこりんな一冊の本に化けるとか、意味わからないんだけど!?
――こんなもん、晩飯の足しにもならないじゃないかっ。
俺は相変わらず続く胃の痛みにうんざりしながらも、仕方なくそれを見た。
若干厚めの表紙と、十ページほどの紙で装丁された薄っぺらい本だった。
なんとなくだけど、どこかゲームのマニュアル本に似ているような気がした。
試しに表紙をめくってみる。
そこにはやはり、『異世界召喚スキル マニュアル』とか、いかにもなことが書かれていた。
これ、今まで気が付かなかっただけで、誰かがここに忘れていったゲームのマニュアルじゃないのか?
そう思ったのだが、この本を持ったときから妙に頭の奥でチラチラと変な光が明滅していて、そこら辺に捨て置く気になれなかった。
なんだか、とんでもなく後ろ髪引かれる思いだった。
言ってみればエロ本だ。
思春期の男の子が道端に落ちていたえっちぃ本を見つけて、チラチラと、ついついそちらに視線を送ってしまうアレ。
本当にどうしようもなく、心が吸い寄せられた。
俺は一度、周囲へと視線を送って、相変わらず薄暗いここに誰も入ってこないことを確認してから、中身を読み始めた。
内容はこうだった。
【スキル概要】――
この世界には無数の異世界が存在している。
この召喚スキルは、そんな異世界にある、ありとあらゆるものを呼び出すことのできる大変貴重なレアスキルである。
『人、物、空気、魔力のみならず、スキルや魔法などの概念にいたるすべてのもの』を召喚できる。
ただし、どこの世界かは選べない。
召喚したいものを脳裏に思い浮かべ、強く念じることで召喚できる。
なお、召喚するときに必須となる素養が存在する。
それが妄想力である。
呼び出す対象を明確にイメージしなければ、必ず失敗するであろう――
◇
「う~ん? なんだか、わかったような、わからないような……」
開いたページに書かれていた内容を読んで、俺の頭の中には『?』が浮かんでいた。
無数に異世界があるとか言われてもピンとこないし、それよりも、そんなところからどこへ何を召喚するんだ? この世界か?
そんなことを思いながら次のページをめくってみたら、そこにちゃんと書かれていた。
しかも――
――初めての召喚時、使用者を中心として地球上に異空間が形成される。
以降、その異空間が使用者の支配エリアとなり、スキルで召喚した様々なものが収まっていく。
一度でもこの召喚スキルを使うと、元の世界には戻れない。
初めての召喚のときには魔力を必要とせず、ありとあらゆるものを召喚できる。
世界丸ごと召喚し、すべてを支配する神になることも可能。
二回目以降はスキルレベルと魔力に応じて、呼び出せるものが限定される。
初回特典として、召し使いを一人召喚できる。
戦闘スキルも習得できる。
初回特典として、言語翻訳スキルも習得できる――
パラパラめくってみたが、大体そんな感じのことが書かれていた。
――つまりは、こういうことか?
異世界召喚スキルっていうのは、異世界から色んなものを現実世界に召喚できるけど、召喚するときには必ず魔力が必要となってくる。
しかも、レベルがあるから、むやみやたらと色んなものを召喚できるわけじゃないし、そもそも、召喚するときには召喚するものを明確にイメージしないと呼び出せない、ってことか?
だけど、初回時だけなんでも呼び出せるとか、これ、マジやばいんじゃ?
しかも、神になれるとか書いてあるんだけど!?
おおよそ現実離れしたような内容だっただけに、非常に胡散臭かった。
ある意味、なんでもありなんじゃ? とか思うようなスキルだったから、一層その思いが強まった。
ただ、一応、デメリットもあるらしく、マニュアルにはしっかりと注意書きもされていた。
なんかよくわからないけど、異空間?
多分、余剰次元とか宇宙ひもとかっていう多次元がうんたらかんたらってことだと思うんだけど――つまり、地球上に別次元の異世界っていうか、並行世界? みたいなのを作って、そこに異世界そのものを呼び出せる。
だけど、一回呼び出したら俺はそこに移動して一生出られなくなってしまうってことだ。
それはつまり、今いるこの世界とおさらばするってことを意味する。
特典がいいからこそ、元の世界には戻れない。そういうことなんだろうけど。
――う~ん。どうしよう……?
俺は悩んでしまった。
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