2.ガチャに当たりました
ピピピピピピッ――
ブッブ~十等!
無情にも、電子音声が鬼畜なことを言い出した。
商品は五千円分の
つまりはネットクーポン券。
「うおぉ~~! ふざけんじゃねぇぞぉ~~~!」
目の前で起こった現実が受け入れられず、しばらく硬直したあとで思わず叫んでいた。
全身から嫌な汗が噴き出してくる。動悸も激しい。胃もキリキリした。
自分の考えが甘かったと、嫌でも痛感させられる。
しかし――
こういうとき、決まって熱くなってしまうのが人の子だ。てか、負け犬だ。
というわけで――
「も、もう一回……!」
藁にもすがる思いで万札投入。なんとなくだけど、お札に描かれていた肖像画のおっさんがニヤニヤしていたような気がする。
そして――
「またかよっ!!」
二回目。七等。温泉旅行券一万円分。
――うぉおい!
結果的に見れば大損したわけではない。
二万円投入して、一万五千円の戻りだから。
だけどこれ、同額分の金券に交換できるの?
どうなの?
ていうか、食費に換金するの面倒じゃん!
そんなことを考えながら、一人呆然と佇む俺。
今まで以上に全身から血の気が引いて行った。
震えも動悸も酷かった。
胃酸も大量に出て来たみたいで、異様に痛かった。
さすがにこれ以上やるのはまずい。
普通はそう思うはずだ。
だから、俺も震えながら財布をポケットにしまおうとしていたはずなんだけど――
ふと気が付いたら、お金が自販機ガチャに吸い込まれていた!
うおぉおぉぉぉ~~!
何やってんだ、俺!
なんで勝手に身体が動いてんだよぉ~~!
心の中で叫びながら、頭を抱えて悶える。
しかも――
金入れてスタートボタン押したのに、何も反応しなかった。
「は? まさかの故障?」
今日一、意味がわからず唖然となってしまった。
なんでだ? どうしてだ?
「反応しないとか聞いてないんだけど!? しかも――おいおい! なんか、煙噴いて爆発したんだがっ??」
そう。自販機ガチャからいきなり煙が噴出し、どかっ~んと爆発してしまったのである。
「ふざけるなよっ。俺の金返してくれっ」
近所に聞こえるんじゃないかと思ったけど、憤りを抑えきれず大声で叫んでしまった。
当然だが、そんなことしたって金が返ってくるはずがない。
店の奥から店員が出てくる気配もない。
本当に踏んだり蹴ったりだった。
俺はショックすぎて地面に両手両膝ついて固まった。
頭が真っ白になっていて何も考えられない。
終わった。完全に、本当に終わった。もう一文無し。家賃も光熱費も払えない。食費もない。
無理だ。
死ぬしかない。
「あは……あははは……」
無意識に乾いた笑いが口から漏れ出ていた。
無性に笑えてくる。
「もう、なんでもいいや。どうとでもしてくれ」
そう絶望に囚われ、呟いたときだった。
突然――
パンパカパ~ンッ。
と、どこかで電子的な、変な音が鳴り響いた。
「あ?」
すべてを失って茫然自失となっていた俺は、上を仰ぎ見た。そして――
「は? ……はぁぁぁ~~~!?」
店の中が七色に光っていたのである。
俺はびっくりして立ち上がった。
煙を噴いて丸焦げになっていた自販機ガチャが、虹色に発光していたのである。
俺は何が起きたのかさっぱりわからず、それを凝視していたのだが――
「え?」
いきなり自販機ガチャが跡形もなく消え去ってしまった。端からそこに存在していなかったかのように。
本当に夢のような出来事だった。
俺は現実を受け入れられず、一人彫像と化した。
そこから回復するのにどれだけ時間がかかったかわからないが、ともかく。
「嘘だろ、おい!? 消えるとか意味わかんないぞ! 俺の金返せよ!」
誰もいない真っ暗闇の店内へと、そう叫んだとき。
何かおかしな気配を感じて、ふと、カウンターに視線を落とした。
「……あ? なんだこれ?」
視線の先、そこには一冊の本が置かれていたのである。
そして、その表紙にはこう書かれていた。
『おめでとうございます。あなたは見事、特賞『異世界召喚』を当てました』
と。
――こうして、その日、その瞬間、俺は異世界を召喚するスキルを手に入れたのだった。
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