第18話 気軽に利用できるゆえのリスク

 そうですね、あの狭い空間でどんなに集めても40人のあの食堂車で一度に皆さん同じものを召し上がるなんてことは、余程の団体客でもない限りありませんからね。

 昔の特急列車の食事時間帯の予約を取ってのシステムをとったとしても、皆さん同じものをお頼みになることなんか、まずありえませんよ。

 皆さん気軽にお越しいただける食堂車になればなるほど、かえって、営業面での効率は悪くなっているように私には思えておりまして。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 宇都宮氏の回答に、一同納得しつつビールをさらに進めている。

 なくなったら、そこからさらに注文が出る。

 そして、追加の注文も。


「ところで宇都宮さん、どやろ、自由席のある特急や急行なんかは、混雑期、大変でしょう。客数に比例して食堂車の売上が上がるとは限りませんようで」

 関西なまりの堀田教授の弁に、川中氏が解説を加える。

「ええ、そこは先生ご指摘の通りでして、そのあたりのデータも、わが社は得ておりましてですね、正直、それが食堂車を連結し続けていいものかどうかと、そういう議論にいずれ発展するのではないかと。これは私の個人的意見ですけど、どうも、そういう空気が、弊社内には徐々に出つつありますね」


 今度は、米国店経営の山藤豊作氏が食品業者としての私見を述べる。

「堀田君の御指摘であるが、私もそれは素人目にも思います。気軽になり過ぎたリスクがあるように、私には思えてならんのです。空いていればゆったり飲み食いも出来ようけど、混雑してしまえば、食堂車に行くのも一苦労、行ったら行ったで粘る客、それも注文しまくっていればまだしも、珈琲かビールを一杯で粘る客ばかりではどうじゃろう、宇都宮君らの会社さんの商売、あがったりになりゃせんか? 私の米屋は御社には納入しておらんしそのような話が来たこともないけど、わしら米屋をはじめ食品業者も、まわりまわって儲からんようになってしもうて、困るわ(苦笑)」

 山藤氏の質問に、さらに宇都宮氏が回答する。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 それはもう、山藤さん御指摘の点、まったくの同感です。

 昔の客車時代の特別急行列車の「つばめ」や「はと」に乗務したことはありませんけど、あの頃でしたら特急は全車指定でして、優等車から順に食事時間帯は予約とっておりましたから、うちの仕事はやりやすかったのではないかと思っております。

 ですが、今どきの街中のちょっとこじゃれたレストランのような食堂車では、気軽に入れる分、その気軽さは営業上のリスク、お客様にとってはサービス上のリスクになっているように思われてなりませんね。

 しかし今どき途中の駅での買い物は乗り遅れのリスクがあります。

 そうなると、車内販売を強化ということになりましょうが、これもね、車両間での売切や品薄のリスクがありますし、何より、ワゴンに詰めるものにも限界がありますからねぇ・・・。

 先日朝の「瀬戸」では、朝5時半ごろから車内販売だけは営業をかけまして、珈琲やサンドイッチあたりを中心に販売しまして、とりわけ朝ともなれば、珈琲はじめ飲み物は飛ぶように売れまして、まあ、料理を出す手間なくしてほぼ単品状態でそれなりの売上が確保できましたから、それはそれでありがたい限りです。

 とは申しましても、終着駅への到着が朝早くて食堂が営業できないとか、よしんばできても約1時間程度となりますと、その分、売上も上げようがなくなりますから、正直辛いものがありますね。


 もっとも車内販売にしても、皆さん同じものを買ってくれるとは限りません。

 そこは、食堂車と一緒で、水ものです。ええ。

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