第8話 真鍋弁護士の回想 3 ~B寝台車初乗車

 法曹筋でも鉄道に詳しい、言うなら「マニア」みたいな方も何人かおられましてねぇ、そういう人らの中には、金をケチって三等寝台なんかに乗られた方もいらっしゃるみたいです。

 ただ、ベッドが狭い、ありゃあ「蚕棚(カイコダナ)」だという方もいらして、というかまあ、こういう仕事しておりますれば、どうしても三等車、今の二等車に長距離乗る人ってなかなかいませんで、昔は特に。別にえらそうにしておるわけじゃない。何かあったときの責任問題にもなるから、客層の安定している二等に乗るのが筋だという意識が皆さんに周知徹底されておったってわけですよ。

 実際、今回の出張が私にとって旧三等寝台初体験、ってことになりますわな。


 まあ何ですか、女房と畳は言うにも及ばず、車両も、新車っていいですね。

~一同爆笑。


 昔の三等寝台車のあの狭いうえに縦幅もない空間に横にならされるのはねえ、それこそ何ですか、今時の子ども向けの特撮番組の乗組員の寝床みたいでして、非人間的とまでは申しませんけど、正直、勘弁してほしいです。なんせ、浴衣もありませんでしたからねぇ。横になるだけであの追加料金ですぞ、正直勘弁ですわ。


 ですが、この際ということで乗車してみまして、よかったですね。

 新車であることだけではなく、何です、寝台の組立と解体、解体は朝が早かったので見られませんでしたけど、組立のほうは、こちらの川中さんがお声がけしてくださって、ぜひご覧くださいとの仰せですから、姫路に着く頃までには寝台車に戻りまして、車掌補の諸君が寝台をセットしてくれるのを拝見しておりました。

 この新車の寝台車は何ですか、ボタン一つで寝台が降りて来るようでして、なかなかすごいですな。これもそれこそ、近未来の子ども向け特撮番組でも見ているような気にさせられましたね。

 最近は電車寝台に始まって、B寝台車も浴衣が用意されるようになったそうで。


 浴衣も結構ですが、何より寝台幅のほうですね。

 こちらも、20センチくらい、正確には18センチプラスですか、広くなっていまして、十分寝返りも打てました。私は先ほども申上げた通り、狭いB寝台で夜を明かした経験はありませんで。

 まあ、A寝台になってからはそちらには何度か乗車しておりますけど、そちらほど広くはなくて、いつぞやヨーロッパで乗車した「コンパートメント」の区画のような感じの寝台ですか、あれは、悪くはないですな。何人かと連れ合って旅行するには、いいのではないですかね。


 私は乗ったことありませんけど、弁護士の知人の息子さんやお孫さんが、修学旅行用電車に乗って修学旅行に行ったお話を聞かされたことがありましてね、あんな感じの旅行には、あの車両、悪くないのかな。

 ただ、寝台車を使って修学旅行となりますと、今の子どもらの親の負担を考えたら、ちょっと二の足を踏むところはありますわな。


・・・ ・・・ ・・・・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る