第6話 真鍋弁護士の回想 1
そうそう、出世払は裁判されたら払わなければならん判例があるという知識を披露したのは、私です。それを選りにも選って堀田先生に「かもめ」号で再会されたときに早速ご披露なさったそうですが・・・。
そのお話聞きまして、いやあ、熱狂に走りかけた当時の研究者の卵の堀田さんにはいい薬になったというべきか、何かが違うというべきか。
一方の山藤君は、士官学校出の職業軍人さんで、陸軍大学校にも行こうとされていた方ですから、まあ、彼らしいかなと思っておりました。堀田さんの出世払とやらはどうやらしっかりとお支払されたようで、と申しますか、現物支給で出世払債務を履行されたと私は理解いたしておりますが(苦笑)、その経緯も山藤君から食堂車でお聞きしましたよ。
そんな話であれば、私の小ネタもお役に立ったようでうれしかったですな。
こういう話は変に悪用でもされたら、ろくな話になりませんからね。
堀田先生のお名前はかねてお聞きしておりましたけど、この度初めてお会いしまして、あんな嫌味な知識を山藤君に与えた困った弁護士野郎なんて思われていないかと思っておりましたけど、どうやらそこまで悪くは思ってはおられないようですので、ほっとしております。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
さて私、東京には年に何度かは出張する機会がございましてね、昔から、宇高連絡船に乗って宇野まで出まして、それから特急や急行で東京へ向かっております。
前日昼過ぎに仕事を切上げて準備をして、連絡船と急行瀬戸を乗り継げば、翌朝6時台には東京に乗込めます。
それから風呂に入ったり珈琲飲んだりして身だしなみを整えて、そうすればまあ朝一番に東京の裁判所なり日弁連なり、どこへでも参れますからね。
前置きはそのくらいで、私と寝台車の関係性を述べましょう。
私ね、戦前から寝台車には御縁があまりありませんで。大体、大学は京都で、高等学校は岡山の六高でしたから、実家のある高松から寝台に乗って行き来するほどの距離、ないですよ。
そうそう、高松中学では職業野球の三原脩君が同級生でしたけど、彼のように全国行脚するような仕事でもありませんからね。
シベリア鉄道に乗って何日も寝台で過ごしてヨーロッパにでも行くならしょうがないですけど、日本国内程度なら、せいぜい1晩でしょう。
横になって寝る、それも今のA寝台なら浴衣もありましょうが、昔から。せめて列車の中で夜くらい着替えて横になってくつろげばと思われましょうけれど・・・。
どうも私、仕事していないと落ち着かない性分でして、あまり寝台は利用しないのです。別に寝台料金をケチって、なんて話ではありませんからね(苦笑)、名誉のために申しておきますよ。
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