第2話 最新型のB寝台とビュフェ
私はこの度、陸軍士官学校の同期会に行って、ついでにかつての仲間とかれこれお会いして旧交を温めて参った。
木曜日に早めに出向いたのは、高松で弁護士をしておる真鍋照三さんが、翌日最高裁判所に用事があるというので急行「瀬戸」に乗って東京に出るとのことであったから、私もお付合いした次第である。
彼はこういうとき仕事もするから寝台には乗らず、グリーン車で行くのが常だそうであるが、まあ、姫路の連隊の同僚の時から仕事熱心な人でね。
そこをうまいこと、私の方から打合せ段階で、折角であるから最新の寝台に乗って参りませんかという話に仕向けましてなぁ。
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山藤氏がそのようなアイデアを年長の元同僚に出したその出処、堀田氏はすぐに見抜いた。
「藤木君の知恵ですな」
藤木氏とは、山藤氏の近所にいる酒屋の鉄道ファンの男性である。
「それ以外の何でもない。しかし非常によろしかった。ちょっとばかり感動したぞ」
「確か、寝台幅が20センチ近く広くなったと聞いていますが」
「それだけでもないが、まあその通り。私は戦前や戦時中に二等寝台車で移動したこともありましたけど、あのときの二等寝台車くらいの寝台幅があるのよ。もちろん三段であるから上はいささか窮屈ですけど、そらしゃあない。あの値段ならお得じゃ」
「それで木曜にここでお会いして後、仕事を早めに切上げて東京に?」
「そのとおり。2日泊って日曜はいろいろやって、今度は同じ「瀬戸」ではあるが、A寝台車で戻って参った。食堂車というよりあれは何だ、新幹線なんかの軽食堂車と一緒で、「ビュフェ」と呼ばれるらしいけど、それに行って昨日の晩と今朝の朝飯を軽く食べてきたのよ。いつもの食堂車のような雰囲気じゃなくてね、真ん中あたりにバーのカウンターのような場所があってそこで簡単に調理したり飲み物を作ったりして、それで、その前のカウンターと、両端のテーブル席と窓に沿ったカウンターがあってだね、なんか不思議な、面白い構造の食堂であった」
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筆者注:最新型寝台車とはスハネフ14型B寝台車、ビュフェとは、オシ16型のことを指します。いずれも、客車です。
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