システマチックに、粋に ~新型寝台とビュフェ
与方藤士朗
プロローグ 出張帰りの朝の喫茶店
第1話 出張帰りの喫茶店から
「堀田君、久しぶりじゃのう。大学に行かなくてもいいのか?」
「ええ、約100時間近くぶりですね(苦笑)。明日は祭日ですから、有休をとって、講義もすべて休講にしました。わざわざ1日のためだけに学生諸君を引きずり出すのも悪いですから。研究室の諸君にも、休みを与えておきましたし、問題ないですよ。それより山藤さん、今、東京からお帰りですね」
「まあな。朝飯は、軽くビュフェとやらでいただいて参った」
「藤木の酒屋君がかねて述べていた、何です、「オシ16」ってやつですな」
「それじゃ。ついでに行きは、最新の寝台車に乗って金もケチってやったわ」
「あの特急用に開発された新型ブルートレインですね、藤木君の弁によれば」
・・・ ・・・ ・・・・・・・
ここは、岡山駅前のとある喫茶店。月曜日の朝のモーニングの時間帯。
「いらっしゃいませ。大将閣下、何になさいますか?」
大将とは、山藤豊作氏のこと。「大将」と言われてはいるが、それは米屋の店主という意味。かつて陸軍の職業軍人で終戦時に少佐にまで昇進していたものの、もし帝国陸軍が続いていたら今頃大将になっているだろうという趣旨も幾分こもった呼称。よって、敬称たる「閣下」もつけられている次第。
もっとも今や陸軍は存在しないので、軍服を着ているわけではなく、普通の背広姿。今ちょうど東京の出張から帰ってきたところだという。
「あ、今日は珈琲だけ。モーニングは、ええ」
「かしこまりました」
コーヒーの香りが店内に充満している。客の入りは半分少々。
8時30分を前に周囲はあわただしいが、喫茶店に入ってくる客は必ずしも多いわけではない。すでに始業時間を過ぎた職場もあればもうすぐ始まるという職場もある、そんな時間帯。
まして今日は月曜日で、明日は祭日。そんな日はどうしても、この店のこの時間帯の客足は鈍くなる。とはいえ、明日もまたお休みという解放感は、この店にも充満しているようである。
当時すでに週休2日制は世に出ていたものの、一部大企業のみの時代。こういう飛び石連休になるような日も、体裁を整えるべく出勤と休みを繰り返す職場も多かった。
もっとも、山藤氏は米屋で自営業者。日曜日こそ休みにしているが、基本的には土日祝日が休みになるとは限らない。
堀田氏は大学教授であり、こちらは本来、月曜日は開校されているものの、こういう日には、教授の裁量などで休みを与える人も多かった。
要はこのおじさんたち、融通の利く仕事についている「人種」なのである。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます